魔王

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魔王

 男の姿が消えて、結構時間が過ぎた。少し気が緩んでいたのは間違いない。  だけどわたしは反射的に立ち上がる。  静電気に産毛が立ち上がるみたいな感覚──と言えばわかりやすいのかもしれない。  今まで感じたことのない強烈な存在が近くにいる。  立ち上がった弾みで椅子が勢いよく倒れた。と同時に剣を鞘から抜いて構える。  わたしの只ならぬ様子に、2人とも警戒を強めた。  玉座の奥からでも無く、従者の男がいた回廊からでも無く、背後にあるわたし達が入ってきた扉が音も無く開く。 「おまたせしましたぁ~」  さっきの従者の声がすると、彼と共に扉から入って来たのはスラリとした背の高い若い男だった。    印象的な紅の瞳に白い肌、鼻筋の通った美しい顔立ち。長い黒髪は肩の辺りで緩やかに結ばれている。ゆったりとした藍色のローブを羽織り、どこか気怠そうな雰囲気だ。  けれど男の重たい視線だけは、まっすぐにわたしへと向かう。  聖剣が意思をもった生き物みたいに、ビタリと掌に吸い付いてくる。  こんな事は初めてで、そしてわたしは確信する。  間違いない。  この男が魔王だ────。   「どうですかジオン様!? 言った通り少女だったでしょ!?」  ピンと張り詰めていた空気を騒々しい声が割って入る。 「まだ子どもではないのか?」 「そうなんですよ! こんなに若いのに頑張ってここまで来たんですよ? ジオン様も見習わないと」 「俺だってやるべき事はやっている。お前が細かいだけだぞ?」
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