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わたしはどうにか魔王の手を逃れようともがくけど、後ろから羽交い締めにされ抜け出せない。吐息が耳元にかかり、魔王の顔がすぐ近くにあることがわかった。
「お前はどこの国の者だ? そっちの2人は王国の者のようだが、お前はそうは見えんな」
「わたしは日本から来たのよ。この世界の人間じゃ無いわ!」
「なんと客人の勇者か!?」
驚いたのか魔王の腕から力が抜けた。
わずかな隙間から手を引き抜こうと剣から手を離した。魔王の脇の下に潜り込むようにしてなんとか抜け出すと素早く距離をとる。
「シュプリンガー!」
魔王の足下に落ちていた剣が瞬間移動して、再びわたしの手の中に戻る。
「ジオン様! 血が!」
血相を変えた従者が魔王の側へと駆け寄った。
「確かに聖剣のようだな。まあ問題ない」
魔王は掌から流れ落ちる血をぺろりと舐める。
「客人の勇者か……」
「人間はやることがえげつないですね。なり振り構わず勇者まで召喚するとは」
ジロジロと、珍獣でも見るように、二人は不躾な視線をわたしに送る。
「とりあえずお前を歓迎しよう」
魔王は口の端をあげて怪しく微笑んだ。
今から本格的な戦いが始まるのだろう。もっと集中しないと次は確実にやられる。
「では、饗宴の準備をいたしますが、とりあえずウェルカムドリンクはガーデンの方か……それとも客室へとお持ちしますか?」
「俺の居室で良い」
「晩餐は炎鳥を仕入れてありますので、それをメインに……」
「ちょっと!! わたしはあなたを討伐しにきた勇者なのよ!?」
声がうわずってしまった。
だってまるでわたし達のことが目に入らないみたいだ。討伐しに来たというのに、晩餐やらドリンクやら『歓迎』って戦う意味じゃなくて、本気の歓迎??
それとも相手にならないくらいの小物だと、遠回しに言っているのかもしれない。
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