独身主義女の恋と結婚

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深夜、不意に目覚めて目を開いた。 いつもなら朝までぐっすりなのに…… そして、驚いた。 えっ? ここ、どこ? 見知らぬ天井が目に入り、戸惑う。 自分が今どこにいるのか、全く分からない。 いつもの安アパートの天井とは違い、中央が(くぼ)んだその天井は、その周囲から暖かなオレンジ色の間接照明が、柔らかく、ほんのりと天井を照らしている。 あ、ホテル? あれ? 今日、出張だっけ? いや、どう見ても出張で使うような安いビジネスホテルの殺風景な天井とは違う。 これは言ってみれば、高級リゾートホテルの雰囲気。 分からないまま、いろいろな考えが、寝ぼけた頭を取り留めなくよぎっていく。 その時…… 「ん……」 すぐそばで、低い声がした。 えっ? 私は思わずそちらに顔を向ける。 っ!! 私は一瞬で息を呑んだ。 (たちばな)……専務! 心の中の呟きにも関わらず、呼び捨てにしかけた後で律儀に敬称をつけるところが、我ながら偉い。 すぐ隣でこちらを向いて眠っているのは、同期の橘 尚之(たちばな なおゆき)。 大学院卒の彼は、同期だけど、私より2つ年上。 そして、社長の長男の彼は、同期だけど、すでに専務。 彼は、入社3年で係長、5年で課長、8年で部長、10年経った今年、専務に昇格した。 一方、私、都築 美香(つづき みか)は、結婚もせずコツコツと頑張ってきて、ようやく入社10年、32歳で係長になったところ。 若い子たちが、私のことを「女を捨ててる」って陰口を言ってるのは知ってる。 でも、就職難の中、必死で就職活動をしてようやく入れたんだから、ちゃんと仕事をしたいって思うのは、間違ってないって思うの。 そう思って仕事を頑張ってたら、学生の頃から付き合ってた彼に28歳の時に振られた。 「俺と仕事、どっちが大事? 結婚して子供ができてもそんな風に働くつもり? 君がそのままじゃ、俺は君とは将来を考えられない」 彼からされた別れ話。 確かに毎日のように残業続きで、デートもまともにできなかったのは悪いと思ってる。 でも、彼ならそんなところも理解してくれてると思ってたのに。 それから、私はそれまで以上に仕事を頑張った。 仕事は裏切らない。 だから、私は、一生、独身でいい。 その結果、今年の春、女性ながら、係長へと昇進した。
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