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『今日は家に帰れそうなの?』
いつものように沙希は
夫の優一にLINEした。
…いつからだろう?
LINEの文面が『今、どこにいるの?』から
『今日は帰れそうなの?』に変わったのは。
優一はゴシップ系週刊誌のライターをしている。
最近は内容がどんどんエスカレートしてきて、
隠し撮りの写真や動画が中心で、
記事は添え物のような扱いになってきている。
「ほぼパパラッチだな、俺の仕事」
そう優一がボヤくように、
仕事は隠れ家レストランやラブホを張り込んでの
隠し撮りをすることが優一の主な仕事だ。
ギリギリの経費ではカメラマンも雇えないらしい。
なので、家に戻ってくるのは
月に数日になることも多い。
子供がいたら、ほとんどいない父親の顔を
なかなか覚えないかもしれないが、
幸か不幸か、2人の間に子供はいなかった。
『今日は家に戻るよ』
…帰ってくるんだ、今日は。
駅前に焼き鳥の店を見つけたと言う優一に
ねぎまとつくねを買ってきて、と頼んだ沙希は
ふと思った。
ああ…優一はU駅の近くのラブホにいるのか。
雄太とこの前行ったとこかな…。
「沙希…ダンナ?」
ベッドに座って携帯を見ている沙希の左肩に
後ろから雄太がアゴを乗せた。
「うん。今日は帰るって」
「なんだあ…今日は泊まれないのかあ」
「ごめんごめん」
沙希は笑って雄太にキスを落とすと、
「シャワー浴びるね」
と、立ち上がった。
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