第3話 親友

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第3話 親友

 マコトは僕にとって、唯一無二の親友だ。  年齢は僕と同じ17歳で、高校3年生。 神戸の私立高校に通っている。  ゲーム上の職業はソードマスター。  2年半前、ソロでドラゴンブロスの狩りをしていた時に、成り行き上、パーティーを組む事になった。  そこで意気投合して以来、大の親友だ。  マコトと居ると、何故かとても気楽で、心地良い。  以来 飽きもせず、ゲーム内でボイスチャットをしながら、毎日一緒にプレイしている。  もっとも、マコト本人の顔さえ見たことないけれど。  神戸は遠いけど、決して会いに行けない距離じゃない。  人が苦手な僕だけど、かつて一度だけ、勇気を出してマコトに言ったことがある。 「会ってみないか」と。  幼い頃から人と喋るのが苦手で、集団生活も息苦しい、そんな僕が、マコトとなら会ってみたいと思ったんだ。  でもマコトはあっさり断った。 「俺達、ヘブンズ・スクエア内だからこそ、親友でいられるのかもしれないぜ」  僕にはよく分からなかったが、あれ以来勇気がなくて、会おうという気持ちも萎えてしまった。  でも良いんだ。 仮に虚構の世界の虚像であっても、マコトが隣に居てくれれば、僕は満たされる。  マコトの存在は、今や僕がヘブンズ・スクエアをプレイする、大きな理由の一つになっていた。  バフォメットを狩りながら、マコトと他愛もない世間話をする。 「ところで洋介、巷の噂で聞いたんだけどさー。 ヘブンズ・スクエアを立ち上げた管理人って、ハッカーの『デビル’s』らしいぜ」  僕は驚いて聞き返した。 「『』って、あの世界的カリスマハッカーの?」  カリスマハッカー『デビル’s』――ネットをする者なら誰しも聞いた事のある名前だ。  政治家や企業のトップ、警察や官公庁、マスコミに至るまで、裏で悪事を働き私腹を肥やす者の証拠を押さえ、全てを白日の下に晒す謎のハッカー。  主に日本の大物が狙われるケースが多く、また犯行の手口から、恐らく組織ではなく単独犯、そして日本人ではないかと憶測されている――。  その程度しか判明していないが、デビル’sが現れてからというもの、悪行の発覚を恐れてか、裏金や利権絡みの犯罪率が激減したという噂も出るほど、裏社会に影響力を及ぼしている。 「……で、そのカリスマハッカーが、どうしてヘブンズ・スクエアを立ち上げたのさ?」  僕の質問に、マコトは素っ気なく答えた。 「俺が知る訳ねぇだろ。 噂で聞いただけだってば。 道楽か暇つぶしじゃね?」  僕は呆れた。 「眉唾にも程があるだろ……」  懲りもせず、マコトは続ける。 「眉唾と言えばさぁ。 敵対ギルドリーダーの、『エロリスト朝倉』っていんじゃん? あいつ東大生らしいぜー!?」  僕は唖然とした。 「それこそ眉唾だろ。 あんなのただの奇人変人の類だよ」 「君たち、今日もトークに花が咲いてるね」  僕たちの元に現れたのは、ギルドマスターの、タマキさんだった。  現実社会では 協調性がなく、組織に属さない者は不利益を被る事が往々にしてあるが、哀しいかな、それはMMORPG内においても同じことだ。  ソロでプレイしている限り、どこかで必ず壁にぶち当たり、上の階層へ登れなくなる。  僕も最初こそソロプレイに固執(こしゅう)していたが、半年も経つ頃には、ギルドの重要性を痛感せざるを得なくなっていた。  でも色んなギルドに体験入団してみたけど、どこも肌に合わなかった。  階層を上下しながら、幾つものギルドを渡り歩く中で、この13階で偶然出会ったのが、ギルド・ホワイトウェーブを率いる、タマキさんだった。  とても物腰の柔らかな人で、声を通しても人格の素晴らしさが伝わってくる。  僕は何故か初対面で打ち解け、心を許した。  リアルでは会社員らしいけど、僕が尊敬する大人の一人だ。  タマキさんはいたずらっぽく言った。 「デビル’sがどうとか、エロリスト朝倉がどうとか、興味深い話をしていたね」  僕は焦った。 「げっ、タマキさん、そんな辺りから聞いてたんですか……言ってくださいよ」  マコトも ばつが悪そうだ。 「ただの与太話ですよぉ~、勘弁してください」  タマキさんは笑った。 「ははは、悪いね。 あまりに二人が楽しそうだったから、つい会話に入りそびれたんだ。 で、ちょっと良いかな?」  僕は言った。 「改まって何ですか? タマキさんが直接呼びにくるなんて、珍しいですね」  タマキさんは少し不満げだ。 「だって君たち、大体いつも二人で行動して、ギルドのボイスチャット切ってるじゃないか。 それに、今回は、それだけ火急の用って事だよ」  マコトが尋ねる。 「火急の用? 大抵のクエストなら、俺等二人が居なくても、ギルドのメンバーで対処できますよね?」 「それが……さっき君たちが言ってた、『エロリスト朝倉』絡みなんだ。 ちょっと大変な事態になっていてね。 ギルメン全員に緊急招集かけてるから、君たちもアジトに戻ってくれないかな」  マコトは言った。 「あのぅ……それってパスできません? 洋介のヤツが、どうしても十字剣フラガラッハを欲しがってまして……」  タマキさんは呆れた。 「君たち、先週も賢者のネックレスを手に入れるからって、ミーティングすっぽかしたよね?」  僕たちは降参した。 「やっぱ覚えてましたか……。 分かりました、今すぐ本部に戻ります」  僕たちは幻の剣を諦め、すごすごと本拠地へ戻った。  リアルもゲームも、欲しい物は いつも、ほんの僅かな所で手が届かない。
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