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第39話 救済
「うわぁあああああああ!!!」
激情に駆られたガンちゃんは速かった。
次の弾を装填しようとしている瓜原目掛けて、猛然と突っ走る。
電光石火で正拳突きを3発叩き込むと、4発目の右手親指を、瓜原の左目に深々と突き刺した。
「あぎゃあ!!」
ガンちゃんは苦痛に悶える暇すら与えず、左目に指を突っ込んだまま、瓜原の頭を壁にガンガン、ガンガンと打ち付ける。
瓜原が意識を失った後も、攻撃の手を緩める事は決してなかった。
その直後、風間先生が視聴覚室に駆け付けた。
僕は叫んだ。
「先生! ユキムラさんが! ユキムラさんが――」
ダランと力なく蹲るユキムラさんを見て、風間先生は即座に状況を理解した。
走り寄ってきて、必死に呼び掛ける。
「ユキムラ! しっかりしろ、ユキムラ!!」
「ああ……賢斗か? もう……目も見えねぇ……」
「しっかりしろ、今すぐ救急車を呼ぶ! 持ちこたえろ!」
「無茶言うな……ごほっ! お前も元医大生なら分かるだろ……俺はもう死ぬ」
「バカ野郎、簡単に死ぬなんて言うな! 生きろ、純也! 絶対に死ぬな!!」
「なぁ賢斗……すまなかった……最期の最期に、謝る事しかできねぇが……25年前の事、本当にすまねぇ……」
「こんな時に何言ってんだ! 環菜ちゃんの事なら、お前のせいじゃない!」
「新太も、映像は見えてんだろ? よろしく伝えてくれ……俺が謝っていたと……」
「止めろ! 頼むから死ぬな!!」
「なぁ賢斗……本当はずっと前から、死に場所を探していた……そしてできる事ならこんな風に、誰かのために死にたいと思っていたんだ……だから俺は今、幸せなんだ……」
「くっ……最期の最期まで、お前って奴は……!」
風間先生はボロボロと涙を流した。
「神条……神条は……居るか……」
ガンちゃんは瓜原を投げ捨て、駆けつける。
「ユキムラさん、います! ここにいます!」
「神条……お前にも本当に……迷惑をかけたな……辛い思いをさせた……償っても償いきれん……」
「何言ってんスか! ユキムラさんのお陰で、俺は生まれ変わることができた!」
「ハハ……そうか……。 クソみたいに惨めな人生だったけど……お前に出会えた事だけが……人生の……誇りだ……」
「ユキムラさん! ユキムラさん!!」
「洋介くん……こいつは無鉄砲で心配だから……傍に居てやってくれ……」
「分かりました……ユキムラさん……!」
突然、握っていたユキムラさんの手から力が抜けた。
「ユキムラさん! ユキムラさん!」
懸命に呼び掛けたが、返事が返ってくることはなかった。
ようやく遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
暫く鳴り響いた後、近くでピタリと止まる。
それは長い戦いの終わりを告げる残響だった。
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