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第42話 真田
ガンちゃんが警察から解放されたのは、翌日午後の事だった。
ガンちゃんから、連絡が入った。
「今すぐ事務所に来てくれ」
切羽詰まった様子だったので、僕は着の身着のまま家を飛び出し、オアシス・ファイナンシャルへ向かった。
社長室に入ると、ユキムラさんのデスクに、1枚の便箋が置かれていた。
便箋にはただの2行。
『親愛なる息子へ
後は任せた』
とだけ記されていた。
ガンちゃんは首をひねった。
「モッチー、どういう事だと思う?」
僕はふと予感がして、法務局や公証役場、銀行など、あらゆる機関に問い合わせ、照会を行った。
すると案の定、オアシス・ファイナンシャルの登記簿謄本は、経営権も資産も、全て神条 銀次に書き換わっていた。 ユキムラさんの預金口座も生命保険の受取人も、全てガンちゃん名義になっていた。
ガンちゃんは困惑した。
「一体何が起きたんだこれは……」
僕は視線を落とした。
「きっとユキムラさんは、昨夜死ぬ覚悟で、現場へ向かったんだろう。 恐らくこの1枚の便箋は、君に宛てた遺言だ。 いつからかは分からないが、弁護士や税理士と準備をし、自分の全てを、君に譲るつもりだったんだ」
「何でだよ……何でそんな事するんだよ……こんなの要らねぇ……! 俺はただ、ユキムラさんに、ずっと生きてて欲しかった……! これからも、もっと色んな事を教えて欲しかった……!」
僕らはその場に立ち尽くし、すすり泣いた。
しばらく経ってから、僕は意を決して言った。
「ガンちゃん。 一つ良いかな。 ユキムラさんの証言や、ガンちゃんの過去……その他色々な状況を繋ぎ合わせて類推すると、ある仮説が成り立つんだ」
「仮説?」
「もしかすると、ユキムラさんは君の……」
ガンちゃんは片手を上げて、遮った。
「モッチー。 それ以上は言わなくていい。 俺は頭が悪いからよ。 分からないままで良い」
僕は笑った。
「……そうだね。 そういえば君は、クラスでもダントツのバカだった」
「うるせぇ、頭突きすんぞ」
「でもそれが、ガンちゃんの一番良い所だ。 つまらない事言ってゴメンね」
ガンちゃんは深呼吸してから、言葉を発した。
「なぁモッチー。 今更 虫が良すぎるとは思うけどよ。 高校卒業したら、オアシス・ファイナンシャルを手伝ってくんねぇか? お前は頭が良いからさ。 力になって欲しいんだ」
僕は思わず、はにかんだ。
「ありがとう。 やっぱりガンちゃんは優しいね。 そうやって いつも僕の事を、それとなく見守ってくれる」
「ち、違ぇよ。 そんなつもりじゃねぇよ……」
「僕、今から猛勉強してさ、四国医科大を受けようと思うんだ」
「四国医科大!? って、もしかして……」
「風間先生の下で、心理学の勉強がしてみたくなったんだ」
「そっか、夢ができたんだな。 良かった。 お前は昔から頭が良いから、きっと大丈夫だ」
「全然偏差値が足りないけどね。 本当に困った時は、いつでも頼ってよ。 何を置いても、絶対に駆け付けるから。 ユキムラさんからも、頼まれたしね」
「ああ。 お前も俺の助けが必要になったら、いつでも言えよ。 ただし、二度と裏社会には首突っ込むんじゃねぇぞ」
「分かった」
僕らは、お互いの拳を合わせた。
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