第43話 冬空

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第43話 冬空

 ヘブンズ・スクエアでの抗争後、時間の経過と共に、事件の全容が徐々に明らかとなった。  現役の市長が麻薬カルテルを組織し、MDMAの製造から販売まで携わっていたという事実は、日本中に大きな衝撃を与えた。  九鬼・瓜原達主犯格は勿論のこと、関係者も芋づる式で次々と摘発された。  多くの警察幹部やマスコミ上層部も関与していた事が明るみとなり、センセーショナルなニュースとして、大々的に報じられた。  ペルセウスや麻薬の密造工場は即時解体、関係筋は虱潰しに調査され、徹底的に断罪された。 九鬼・瓜原両名は、無期懲役刑となった。  最終的に3,000名を超える死者を出したが、裏市場に出回ったインフェルノ・プラネットの根絶には至らず、現在も犠牲者は微増している。  安価で高品質という触れ込みだったインフェルノ・プラネットは、皮肉なことに、裏サイトで価格が高騰し続けており、その爪痕は今なお深く刻まれている。  また事件に関与した海堂組は、暴力団対策法により、半年の後 取り潰し処分となった。  最終的にここまで被害が拡大したのは、九鬼による警察の懐柔で、初動捜査が致命的に遅れた事が、最大の要因とされている。  なお、動画サイトに当日の様子が流れていたものの、誰がどのような形で関与したのか断定する証拠には成り得ず、結果的に、県警組織犯罪対策課の成果として、語り継がれている。  これが後に、『インフェルノ・プラネット事件』といわれる事件の顛末である。  しかしあれだけ世間を賑わせた事件も、今では殆ど口にする者は居ない。  すっかり色褪せた、過去の出来事になろうとしている。  ――あれから4年が経った。  ガンちゃんは ユキムラさんの後を引き継ぎ、社長業も すっかり板に付いた。  そういえば先日、いつかのパチンコ依存症のお爺さんが老人ホームに入る事となり、その保証人になってしまったと、ぼやいていた。  やっぱり僕の言ったとおりだ。 根は正直で、お人好し。  僕はというと、四国医科大学の卒業を、間近に控えている。  12月の寒空の下、僕はコートを着て研究室を出た。  僕は冬の景色が、何となく好きだ。  街はイルミネーションで彩られ、商店街のスピーカーからは、クリスマスソングが流れている。  僕は夜空を見上げて、ため息をついた。  風間先生には、4月から大学院に来るよう誘われているが、迷っている。  実は名古屋にいる新太さんからも、勧誘されているのだ。  今度、ヘブンズ・スクエアを超えるぐらいの、人間の欲望と感情を炙り出すような新作を作る。  そのプロジェクトのリーダーとして、是非ウチの会社に来ないかと。  風間先生の下で心理学の探求か、はたまた新太さんの下で新作MMORPGのチーフプロデューサーか。  優柔不断な僕には、とても決められそうにない。  半年後の自分は、一体どこで何をやっているんだろうか。  この先もずっと、人生という名の長い道は続く。  色んな人と出会い、傷ついたり、逆に誰かを傷つけてしまう事があるかもしれない。  でも人は、人と関わるからこそ、強くなれる。  僕は素敵な人達との出会いと別れを通じて、それを知ることができた。  田舎の冬は大気が澄んで、星空がよく見える。  未来の僕は、どうなっているんだろう?  僕の頭上には、夜空を覆い尽くさんばかりの惑星が、ただ瞬いているだけだった。
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