五十九

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五十九

「リチャード様、リチャード様……目を開けて!」 「……っ、ミタ……リア、この場から走って逃げろ」 「ミタリア様、逃げてください」 「……早く」  苦しげな声を上げる皆んなを見渡して……  ――そうだ 「特大【オフトゥン召喚!】」  この場に特大オフトゥンを召喚した。 「やめろ! ……ミタリア、こんな場所にいず、はやく逃げろ!」 「嫌、苦しむリチャード様を置いて一人で行けなんて言わないで!」  私は嫌々と首を振り――オフトゥンの上に座り癒しを発動した。緑色のニャンの模様入り魔法陣が緑色に光る。王子達に癒しの力が伝わり怪を少しずつ治していく。  このまま癒しを続ければみんなの怪我はよくなる。  ――早く、怪我を治して!!   「治して、リチャード様をみんなを治して!」  傷付いた王子達を見て、苦しくって、ポロポロ泣きながら癒しを続けていた。もう少し、もう少しと癒している途中に誰かが私の体をフワリ持ち上げた。 「わあっ、だ、誰? やめて、離して!」  離せ!と、暴れたけど離してもられない。  私を捕まえた誰かは楽しげな声を上げた。 「ほんとうに変わった特殊能力ですね"オフトゥン召喚"に"癒し能力"は実に面白い……獣化した見た目も可愛らしくカーエン殿下が欲しがるのが分かります」  カーエン? そに前にサーッと血の気がひく……わ、私、首輪に裸なんて嫌! 離せともっと暴れたけど大きな手で捕まっていて離してもられなかった。   「き、貴様!」 「これはこれは国王陛下、怪我は治りましたか? とても素敵な舞踏会の開催を感謝いたします」 「獣化研究所、所長デンス! ……俺の妻と娘に刺客を送ったのはやはり貴様だったのか!」 「ええ、そうですよ」     え、王妃陛下と王女様に刺客を送った? だから王子はいっとき陛下と慌ただしく会議をしたり、王妃陛下と王女様に会っていたんだ。 「とても素敵でしたよ二人を守り戦う陛下、かなりの重傷を負わせたはずなのに。もう動けるなんて獣化とは素晴らしい!」  国王陛下が重傷? 怪我をしているから一番に動きそうな場面でも動かず王子に任せていたんだ。 「うぐっ、貴様……私が本調子であれば、お前など……ハァハァ、消し去ってくれるのに」  牙を見せて唸り声をあげた陛下…………しかし、よく見れば左の袖から血がポタリポタリと床に落ちて、大きな血溜まりを足元につくっていた。かなりの大怪我だ――獣化する者は傷が治りやすいだけで、直ぐに治り動けるわけではない。   「なんで……なんで、貴方はこんな事をする?」 「ミタリアさん――私はずっと獣化について研究してきたんです。しかし、どれだけ研究しても獣化するメカニズムは解析されませんでした……更なる研究をしたいのです、ホンモノの獣化する獣人を使ってね!」  獣化する、獣人を研究に使う? 「そんな、バカなことを言わないで! 貴方一人の野望のために、そんな事は許されることではないわ!」 「えぇ重々分かっていますよ。でもね、私の長年の夢を叶えたい。――私も貴方のように獣化したいんですよ。獣化する貴方た達がとても羨ましくて妬ましい……」 「………っ」 「ミタリアさん――貴方が大人しく私と一緒に来れば、私はこれ以上誰も襲いません」  私が大人しく所長に着いていけば王子達はこれ以上攻撃を受けない……私の癒して少し傷を治したから後は自力で目覚めるだろう。  カーエンの所になんて嫌だけど……  誰も傷付かないのなら…… 「私が行けば誰もこれ以上傷付けないのですね。……分かった着いていきます……」 「ダメだ、ミタリア行くな!」  私はフルフル首を振った。  王子が傷付くのが一番、嫌なの。 「……好き、リチャード様大好き、ごめんね」 「バカ、俺はどうなってもいいんだ! ミタリア……俺も好きだお前を愛している……まだ、俺に力が足りないせいで、ミタリア」  泣かないで、もっと、もっと一緒に……あなたといたかった…… 「さぁ行きましょう。貴方の主人が人族の国で、あなたのご到着を首を長くして待っておいでです」 「ミタリア……ミタリア!!」 「リチャード様……」  デンスは私を軽く抱き上げて連れて行く。狼王子の青い瞳が私を見つめた、その瞳は必ず迎えに行くから待っていろと言っているように見えた。 ――見えなくなっていく王子、ズキッとお腹に激しい痛みが走った。
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