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五十八
会場内の雨は何者かが放った魔法が切れるまで止まないだろう。そして同様にドンドン膨らむ魔力。
(また、今度な何の魔法を放つというの?)
会場内にいた貴族たちはバルコニーから殆ど、外に出ていった――良かった逃げれたみたい。
舞踏会が開催されていた会場にとどまるのは。
騎士に指示を出す国王陛下と陛下を守る騎士数名、演奏をしていた音楽家、コック達と――中央にカーエンと側近、彼の近衛騎士だ。
王子はカーエンを睨み付けた。
「カーエン王子はなぜ? この場から逃げない!」
そう王子が叫んでも彼は私に視線を送り、歪んだ笑いを浮かべているだけで、一言も発さない。
(…………怖い)
もはや、彼は不気味過な存在だった。
「ミタリア、お前らも魔力が膨れ上がる前にココを出るぞ!」
「わかった!」
「かしこまりました、リチャード様」
「「はっ!」」
王子はガシッと私の手を掴んでバルコニーの方に走りだす。この行動にヒールでは着いていけず転びそうになった私を引き寄せて、王子はお姫様抱っこをした。
「すまない、ミタリア。ドレス姿では走りにくかったな」
「いいえ、平気です。リチャード様まって【オフトゥン召喚】」
と、濡れた足元に長細い橋をイメージしたオフトゥンを召喚する。猫マーク付きの魔法陣と共にボフンとバルコニーまで続く橋のようなオフトゥンが現れた。
「リチャード様オフトゥンを踏んでいけば、今日の履き物でも濡れた会場内で転ばなくて済むはずです。会場内に残っている皆さんも遠慮せず踏んで避難してください!」
「「「はい!」」」
止まらない雨から守る様に――なりわい道具の楽器を仕舞っていた演奏者たち。料理を片付けていたコックたちに向けて私は大声を上げて、彼らに"こちらです!"と王子に運ばれながら先に彼らをバルコニーへと誘導した。
あとは陛下と私たちが避難して終わりのはずだった……佇む、カーエンが楽しげに声を上げて笑った。
「あれがミタリアちゃんの特殊能力か……可愛い能力だね。益々、君が欲しくなったよ」
カーエンの声に王子はその場に足を止め彼を睨み付けた。
「そうだろう、俺の婚約者は可愛いだろう? 狙っている様だが貴様などにやるわけにはいかない」
「はははっ、さて、どうかな? そう言ってられるのも、いまのうちだと思うよ……リチャード」
カーエンはそう言い手に持った、透明なガラス瓶を会場の床に向けて投げつけた。パリンと音をたてて、彼らの足元で割れ真っ白な紋様の魔法陣が現れた。
「いかん、リチャード! 早く、その場から離れろ!」
壇上から何かに気付いた陛下の声が飛び、大怪我の中、此方に飛んで来ようとしたが騎士たちに止められた。
「父上? カーエン、なにをする気だ……」
「何って? 腑抜けた国の王子は気付くのが遅いね。一つ、鈍感な君に良いことを教えてあげる……僕は囮なんだよ――リチャード」
そう言い残してカーエンたちは現れた光りの中に、ニヒルに微笑み消えていった。
その直後、
膨れ上がった魔力は私たちに向けて放たれ、会場内に響く爆発音と共に、イカズチが落ち壁まで吹っ飛ばされた。
「きゃっ!」
「ヴクッ!」
落雷の衝撃に"バキッ"とブレスレットが音を立て壊れて、私たちは各々獣化した。――雨で水を含んだ衣装は電気を通しやすいのか、王子たちはもろに雷を喰らい転々と倒れていた。
この場で雷を喰らっても魔法壁に守られた国王陛下は何ともなかった。私も王子の体に守られて雷と壁への激突をまぬがれた。だけど――目の前でうめき声をあげる狼王子とリルと近衛騎士たち……
「あ、ああ……リ、リチャード様? みんな? いや、いやぁぁあああーーー!!」
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