六十一

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六十一

 ところ変わって――王城。リチャード達はしばらくして動ける様になり、大怪我を負う父上を医務室へと運び、悔しげに声を上げた。 「信じられない……デンス所長がカーエンと繋がり、父上に怪我を負わせて俺のミタリアを連れていくとは……」  父上からデンス所長が怪しいと聞き"あの人"がと俺は信じられなかった、しかし奴は真っ黒だった。  奴の悪を見抜けないとは。  まだまだ未熟者だな、俺は…… 「……落ち込むなリチャード」 「しかし、父上!」  わかっている、父上の影はいま大切な母上と妹を守っていて動けない。自分の力が至らない……これでは影をもった時に操る事ができない。 「なに!」  父上が声を上げた。 「どうしました、父上?」 「ブロードサーチ(広範囲)できぬ…………クッ、我々の特殊能力を詳しく知る男だ。奴は我々に追跡をさせないように、人族の魔法を使用した馬車にて移動中のようだ」 「それなら俺に考えがあります、父上はゆっくり体を休めてください。リル、行くぞ! 二人は父上を守ってくれ」 「「かしこまりました!」」  俺たちは一旦、会場に戻りミタリアの私物を探した。特殊能力オーダーサーチ(匂い探索)する為だ。もしもの為に、ミタリアには俺の匂いをベッタリつけておいた。  ミタリアは嫌がると思ったが俺にはそれしかなかった。しかし彼女は慣れ親しんだ俺の匂いなのか……くっ付いても嫌がらず、たまにいい匂いと言って照れていた。 (ミタリア……)  他の彼女の持ち物も――ハンカチか私物が無いかと探していた。舞踏会でミタリアが着ていたドレス近くに、水色のポーチが落ちていた。 「このポーチはミタリアの持ち物か?」     さっきの落雷で金属部分のファスナーは全て壊れ、中身がいまにも落ちそうだ。  中身は何?  「栞とハンカチ?」    このハンカチの隅には狼の刺繍がしてあった。  そしてポーチの中には手紙も入っている。内容は――俺の誕生を祝う言葉と『前に渡したハンカチよりも刺繍は上手くなりましたよ。それと本をたくさん読まれるリチャード様に、私とお揃いの栞を作りました使ってね』……と、可愛らしいミタリアの文字で書かれていた。  手が震えて、目頭が熱くなる…… 「ミタリア様はお優しい方ですね」 「あぁ、リル惚れるなよ……うぐっ、うう……必ず、必ずこの手の中に取り戻してやる、待っていろ……っ、ミタリア!」
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