六十三

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六十三

「ドラゴン君、無理しないで」 「ワレは平気だ!」  しばらくオフトゥンの上で寝て、目を覚ましたドラゴン君は少し空いた場所に爪を立てた。  目の前でガギッ、ガギッと金属と爪が割れる音がした。 「ドラゴン君!」 「クッ、……大丈夫、黒猫、癒しだ」 「は、はい!」 そのとき"ウオーーーン!"狼の遠吠えが近くに聞こえた。あ、……私には聞き覚えのある声だった。 (……王子が来た)  だと思った瞬間にガタンと荷馬車が激しく揺れて停車した。いきなりの揺れに眠っていた子供達が目を覚まして、恐怖に怯え泣き始めた。  私は王子が来たと確信して、子供達をあやした。 「怖くない大丈夫だよ。いま助けが来るから落ち着こうね」   「黒猫、ほんとうか、ほんとうに助けが来たのか?」 「ええ、来たわ」  外側の鍵が開けられて、ギィと鉄製の扉が開く。  その開いた扉から王子の香りがした。 「リチャード様、来てくれたんですね」  扉の向こうに狼の姿の王子が見えて、私は飛んで彼に抱きついた。 「迎えに来た、ミタリア。怪我はないか?」 「はい、リチャード様の怪我はもういいのですか?」 「もういいよ。ミタリアの癒しが効きいた」 「……よかった」    王子の頬にスリスリ、スリスリ擦り寄せて、また会えた喜びを噛み締めた。じゃれあう私たちの後ろでは、ドラゴン君がメガネをかけた黒髪の竜人に怒られていた。 「シック様、あれほど一人で行動しないでと、お願いしたでしょう!」 「うっ。ルカ……悪かった! 散歩していたら丁度、この荷馬車に子供を乗せている所を見たんだ。それで同族がいないかを確認をしに行って、見つかって捕まった」 「ご無事でなによりです」 「……心配をかけたな」  いまメガネさんはドラゴン君の事をシックと呼んだわ。彼は竜人族の王子シック・トルナード、乙女ゲームの隠しキャラだ。彼が登場するのは二年からのはず。 「どうした、アイツが気になるのか?」 「え? あ、荷馬車の中で彼に助けてもらったから……お礼を言わないと」 「そうか、彼がミタリアと子供達を助けてくれたのか。あとでお礼を言わないとな」 「はい」 「ミタリア、栞と刺繍入りのハンカチをありがとう、大切にするよ」 「リチャード様への誕生日プレゼント」  あの時、雷でブレスレットが壊れて獣化してしまったから、ドレスと一緒にしまっていたポーチも落ちてしまったんだ。そのポーチを王子が見つけてプレゼントを受け取ってくれたんだ。 「城に戻ったら、俺もミタリアに渡したい物がある」    王子はスリスリと鼻頭を鼻に擦り寄せた。 「よし! 伏せているものを全て捕まえて、子供達を連れて帰るか」  王子とリル、メガネさんは荷馬車の中に王子の"遠声"で動けなくした、デンス達を放り投げ鍵をかけた。馬車の操縦をメガネさんに任せ、彼らが乗ってきた馬車に子供達を乗せた。 「シック様も帰りますよ」 「ああ。ルカ、ちょっと待ってくれ……黒猫、君の癒しが効いた、ありがとう」  お礼を言うドラゴン君に私は首を振る。 「違うわ、一番はドラゴン君の頑張りだよ。あなたの頑張りが子供達を助けたの。ドラゴン君、ありがとう」 「シック王子。ミタリアと、子供達を助けてくれてありがとうございます」 「そうか! ワレの頑張りでみんな助かってよかったな! さて、戻ろうか!」  馬車に乗り込み戻っていく、その後ろを王子の背中に乗って私達も城へと走りだした。
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