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「…聡さんの状態は良いです。このままのペースなら退院もじきです。」
「そうか…、良かった。…仕事も遅れが出るから大変だよ。」
聡は瞳と話して大きく伸びをした。瞳は相変わらずの淡々の仕事ぶりだ。
「では、また何かありましたら連絡お願いします。」
「あぁ、ありがとう!しかし、退院となると瞳ちゃんや他の人に会えなくなるのは寂しいなぁ。」
聡はわざとらしく言うが、去っていく瞳の後ろ姿は振り返る事は無かった。
「…釣れないねぇ。」
聡は首を傾げて笑っていた。一方で廊下に出た瞳は口角をゆっくりと上げていた。
その横を通り過ぎる警官、武藤と美波。瞳は一度足を止めてふり返った。その足を180度回した。
「…聡さん!」
「お、美波ちゃん!」
「あの…警察の方が面会に。」
「警察だと!?」
驚きと戸惑いの声が上がる。そして武藤が姿を現した。警察手帳を開き武藤は聡の前に。
「警察官の武藤です。」
「ど、どうも…。」
物々しい雰囲気に美波と聡も飲み込まれている。武藤は美波を見て出てく様に首で言う。美波もうなずいて部屋をあとにした。
「…何かしら…、悟さん?」
美波が扉の向こうを気にしていると声が。
「美波さん。」
「わっ!?瞳さん!?」
「…聡さんに面会?警察官が?」
「…えぇ、なんか…嫌な感じ。」
「分かりましたけど、美波さん?別の病室の患者さんのバイタル測定の時間よ。」
「…はーい。」
美波が渋々と廊下を移動していく。
蛍光灯の光が照らされた廊下に残された瞳。
目を閉じて、じっと壁によりかかり部屋の中の話を聞くのだった。まるで胎児の鼓動を聞くように。
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