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店主としては、注文を聞かずに箱詰めはしない。だがしかし、だ。女性はどう見たって、店にマカロンを買いに来た女性ではない。そうではないが、何かをせねばなるまい。桔梗は不思議と湧く使命感と共に、自身の自慢であるマカロンを数個ピックアップして箱に詰めた。
愛らしいコーラルピンクの化粧箱に次々詰められていくマカロン。蓋をして、グレーベージュのリボンを巻いて紙袋に入れた。
桔梗はそのまま、その紙袋を女性の膝の上に置き、目線を合わせた。
「マカロンはお好きですか? 一応俺、この店の店長でして、野中桔梗と申します」
「……」
女性は口を開けたまま、ぼんやりと桔梗を見た。
「喫茶室と言っても、持ち帰り専門店なんですけどね。なんかいいじゃないですか、喫茶室って響きが」
「……」
「もしよろしければもらってください。これも何かの縁ですから。あと休んでいって構わないので、リラックスしてください」
「……私、お金持って来てなくて」
「構いませんよ。それは、贈り物です。あなたに」
「……私に?」
桔梗が頷くと女性は驚きながらも、その紙袋を大事に抱き締めた。
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