喫茶室マカロンのお品書き

いつも通りの日常の始まり

　清々しい晴天を突き破る騒がしい足音。乱暴に開かれた扉から脱兎の如く飛び込んだ人影。急いで扉を閉めたと思ったら、身を潜め息を潜め、冷や汗を流していた。
　ようやく交わった視線が、互いに宙を舞ってはまたぶつかった。
「……喫茶、室？」
　脱兎ではない人間の女性の声に、反射的に喉がなって口が動いた。
「……いらっしゃいませ……でよろしいでしょうか？」
「あ、はい……」
　店主である野山(のやま)桔梗(ききょう)は、女性に戸惑いつつも声を掛け、立ち上がる手伝いをして待合席へと案内した。
　桔梗は急いでコップに注いだ水と、メニュー表とは名ばかりの紙一枚を持ち出して、壁にもたれて息を切らしていた女性に渡した。
　女性は水に気付くなり、一息に飲み干してしまった。女性は、とても小さな声でお礼を言った。