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 俺は転職した。  前の会社は二年以上働いていて、同僚の恋人とも別れてしまったが未練はない。新しい勤め先は、神戸の中央区に本社を置くパソコン教室だ。  炎でも纏っているかのような日差しと風が肌を刺す、八月の中頃。  本社で午前中の研修を終えた俺は、二人の新入社員と昼食を取ることになった。休憩室の円卓に三人で陣取ると、それぞれ自分達の昼食をテーブルの上に載せる。さほど広くない休憩室には、自分達以外に二人の上司が昼食を取っている。一人はカップ麺を啜りながら、スマホで動画を観ていた。すると、一人だけ弁当箱を包んだ風呂敷を置いている隣の男性が口を開く。 「改めまして、神宮司清次です。前職では携帯ショップで働いていました。よろしくお願いします~」  明るい声でそう言うと、彼は笑顔で会釈をする。特別、お腹が出ているわけでも、大柄な体格なわけでもないが、角が丸い体付きだ。神宮司さんに倣って会釈をすると、俺も本日二回目の自己紹介を行う。 「僕も改めまして、隈田蛍です。前はスーパーに勤めてました。これから、よろしくお願いします」  もう一度、軽く会釈する。最後は一人だけ先に食事を取っている新入社員の女性だ。彼女も会釈をして話し出そうとするが、コンビニのおにぎりを頬張っており、そのままペットボトルの水を喉に流し込む。 「うぷ─どうもー。田所真奈でーす。前は塾の講師やってたから、よろしくね~」  笑顔で彼女が言い終わると、俺は一息つく。同期なら、もうタメ口でいいだろう。
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