村娘と海豹男

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 賢女である母や祖母と似て手先が器用で、時に豊漁を齎す魔法の網を編んでは父や祖父に与え、野草を集めて調合しては家畜たちに良質な羊毛や牛乳を生み出させた。御陰で一家には主の祝福が舞い降り、父が彼の恩恵を再現する機会も増えていった。  十二歳のベルダはある夏の日。家族と共に外祖母がいるグレインセイ島へと向かった。其処には彼女の叔母が住むのであるが、母とは似ても似つかず心身共に悪霊の呪術に掛かったような醜女であった。  叔母は年甲斐もなく麗しい倅たちに恵まれた姉を妬ましく思い日に日に無意味な憎悪を募らせていたが、しかし夫の手前で醜貌を露わにすることができずにいた。  とはいえ熟れた果実ですら酸っぱく感じるような舌を持つ叔母がそう長く保つはずもない。  彼女は家族が皆寝入った時間にひっそりと甥たちと姪が眠る部屋へ行き、農作業や漁による疲労で深い眠りについている甥の緩んだ腕から姪の身体を引き抜き、麻縄で白い枝を束ね、姪の口に轡を食ませてから連れ出して樽に閉じ込めてしまった。  人目につかない夜。叔母は樽を音を奏でる魚の住処に投げ捨ててから何事もなかったように家へと戻った。
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