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「でも、王子は存在したのね」
アリシャは一人佇むエドの姿を思い浮かべていた。誰も寄せ付けない空気を纏うエドの姿を。
「ね。でも力を受け継いでいないのは……」
そこまで饒舌だったアヴリルが急に言い淀んで、手にしていたお玉を止めた。
「先代の王が魔力を持っていたのは確かな事だから、そうなると王女の不貞の子……」
咄嗟に頭を振り、自分の言葉を追い払うようにしてアヴリルは言い直す。
「いえ、そんなのわからないわ。なんらかの理由で力が子供に移行しなかったのかも。私達にはわからない理由があるんだわ」
アリシャもそのあたりは憶測で話してはいけない気がして、慌てて止まり気味になっていた作業をこなしていく。
「そうね。それよりルクはどうなったかしら? ナジとボリスが追いかけていたけど」
ほうれん草を上げて絞り出したアヴリルが「戻ってきてないわね。ほんと、ルクってば。愛は盲目とはよく言ったものだわ」と軽く憤り、勢いよくほうれん草の根本を落としていった。
「これでまた皆のところに顔を出しにくくなってしまうわね」
アリシャがシュンとする傍らで肩を怒らせたアヴリルが茹でるのに使った鍋を下ろして運び始めた。
危ないから私がやるとアリシャが言っても、アヴリルは大丈夫だと言って表に運んでいって湯を捨てて来た。
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