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料理を作り終え、アリシャは各家庭に食べ物を届けに行ってきた。
扉越しに話すのは寂しいが皆食事を楽しみにしてくれていて、しかも温める手間はあっても、熱々の料理を食せると喜ばれた。宿屋にいる面々には鍋からよそって直ぐに持っていくことで温かさをキープした。
「アリシャ! もうずっといい匂いがしていてドクとご飯はなにかしらって話していたのよ」
とりわけレゼナが喜んでくれたのは嬉しかった。母性の強いレゼナがこの状況に気落ちしていないはずがない。エドは息子だし、そんな息子のそばにいられないのだから。
「レゼナ。私がエドのところに行くことになったの──自分に防御を使って。それで何か取ってくるものとか、エドに伝えたい事とかあれば」
扉の向こうで二人の話し合う声がモゴモゴと聞こえ、再びレゼナが扉の前に立ったのが音で伝わってきた。
「必要なものはもってきたから大丈夫よ。ドクと私からエドに『愛している』と伝えてちょうだい。『愛しているわ、エド。私達の宝よ』そう、言って」
「はい。精一杯看病してきますから──」
アリシャには他に何も言えることはなかった。もっと力付けたいとか、もどかしい気持ちはあるが今はなにもかける言葉がない。
扉の向こう側で神に祈りを捧げているのがアリシャの耳にも届いていた。アリシャも同じ気持ちで小さく祈りを捧げた。
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