干し葡萄と蜂蜜のオートミール粥

4/4
前へ
/507ページ
次へ
 アリシャの村も大きい方では決してなかったが、それでもニ十世帯は超えていた。ニ世帯とはあまりにも少なかった。 「元は結構しっかりとした村だったらしいが疫病で全滅して打ち捨てられていた。そこに私達が居着いたのが五年前くらいか、そんなものだな」  アリシャは半分以下まで減った粥を再び口に運びながら頷いた。  そういう村は時々あると聞いていたし、疫病は悪魔の仕業と言われているのでなかなか人が集まらないのも納得がいく。好き好んで悪魔の巣に住みたいなどという酔狂な人間はいないのだ。 「無理にとは言わん。少し行けばそれなりの体をなした村もある。そっちに住みたいなら口を利いてやらんこともないぞ」  そっちは金はかかるがな。と男は付け加えて髭を弄る。 「こちらに住むならかかりませんか?」 「手入れのされてない家しかないし、そこは誰のものでもない。屋根を直して住めるように整えねばならんが、我々も手を貸そう。その時の手間賃のかわりに、雑用やら何やらやってくれればいいだろう」  アリシャに選択の余地はない。なんせ財産は馬のスリと服を売った九百五十銅貨(ブルグ)しか持っていないのだ。アリシャ一人、春だけなら食べていかれるが、それ以上はこの金だけでは無理というものだ。 「行くところもありませんし、こちらでご厄介になります。よろしくお願いいたします」  頭を下げるとレオがそっと笑った。 「畏まることはない。誰のものでもない村に住むだけのことだ。協力して生きていこうではないか」  寛大なレオにもう一度頭を下げると、また食べなさいと言われたので素直に食事を口に運んでいった。  温かく甘いえん麦(オートミール)粥がこんなに美味しいと感じたことはない。始めは震えていたスプーンの先が揺れなくなっていた。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

676人が本棚に入れています
本棚に追加