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「今どこにいますか?」
多分あいつからだろう、俺はぼんやりとした意識に支配されている。
(渋谷か?スクランブル交差点の真ん中で、やられたらしいバカ共に)
俺早川直行(はやかわなおゆき)は、タクシーの天井に落ちたスマホを見ながら、呟いている。
ボイスメッセージの相手は、辻聖香(つじせいか)、俺の婚約者だ。
今夜10月31日は、婚約から一年後の、記念日だ。その為に俺は、恵比寿のオフィスからタクシーで渋谷に駆け付けている。
もうすぐ渋谷か、とふっと意識が落ち、タクシーに揺られているうちに、天地が逆になって今に至る。
残っているのは、不自然な顔への柔らかいような弾力に満ちたような衝撃だけだ。
アホらしい!ハロウィン馬鹿が騒いでタクシーをひっくり返したに違いない。俺は渋々タクシーから出ようとした、その時だ!
「せーの、行くぞー」
タクシーが宙に浮き、元に戻された!やったのは周囲から集まったバカ共だ。
ちっ、、、外は暗い7時くらいだろうか、聖香との待ち合わせの時間に遅れて、やけに舌打ちの音が大きくなる。
この手のバカ共は、勢いで何をするか分からない。
そう、俺の大嫌いな、吐き気がする言葉たちだ。
「やろっか?」
「いんじゃね!」
こういう奴らとは、口一つ聞きたくない、こちらの人生が狂わされるからだ。
騒ぎ集団で犯罪行為をしておいて、「ノリと勢いで、みんなやってるから?みたいな、、、」と。
無計画でその場ノリのバカ共が、この日本を壊しているんだよ!
だが、集団はその場のノリと勢いで繁華街へ行かず、俺の乗るタクシーを取り囲み、輪を作ってクルクル回り出している。
(おい、調子に乗ってるぞこいつら。止めないのか、なんちゃらポリスとか!)
「なあ、俺?」
「はあ!」
俺は目を疑った!俺が居る、もう一人?隣に居る。
俺はスーツをカチッと着こなす。
隣の「俺」は肥満し、目にクマを作って途轍もなく酒臭い息を吐きつけてくる!
前の座席には、長い髪の、似合わない赤紫の口紅をした「俺」が座り、こっちを見ている。
俺は耐えきれなくなって、怒鳴った!
「誰なんだお前ら!」
口の中に、鉄さびの味が広がる、胃の中にはタールのキツいタバコの煙が、喉元の手前までこみ上げている。
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