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◆ トマゾ修道士による前書き
この度、タダイ修道士の跡を継いで、聖バシリオ精神病棟を慰問する役目を仰せつかった。
そもそもこの精神病棟を我々修道士が見舞うのは、患者たちの心の安寧に少しでも貢献できれば、という修道院長の意向によるものであった。患者の中には信仰心篤い者が少なからずおり、その者たちに傾聴と祈りによる導きを与えることが私に課せられた使命である。
精神病患者と深く接する機会の無かった私にとって、彼らの言動は時に奇妙でこそあれど、噂に聞いていたような恐ろしさは今のところ感じていない。むしろ、強い執着に囚われた彼らを憐れに思う。
とは言え、先代をあのような状態にまで追い詰めたものが、この病棟にはあるのだ。私も先代に倣い、聖バシリオで見聞きした出来事を書き記しておこう。
これが後に何かの役に立つことを願って――いや、この記録が必要とされる事態にならないことを祈って。
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