講談師がダークファンタジーの世界に転移した模様!

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「そ、それは一体、何?」  マヒルは口に手を当てて怯えています。 「『禍々しい花束』って、何だか不気味な名前よね」  ポーはごくりと生唾を飲み込みます。 「これは体勢を入れ替えてしまう力だポー」  ドンゴがじれったそうに地団駄を踏みます。 「どういう意味だッ! オレさまにもわかるように言えッ!」 「例えばポー。攻撃の体勢に入ったとするポー」  イッショウを真似て、天地引用活殺の構えを行います。 「その瞬間、『禍々しい花束』を発動させることによって、本人の意思とは関係なく、強制的に防御の体勢に変えてしまうんだポー」  すかさずイッショウがそうしたように、体の前で張り扇と扇子を構えた格好をするのでした。 「つまりダラ」  ギンジは視線を3301に向けます。悠々と笑みを浮かべてこちらの様子を伺っています。 「攻めようとしても攻められず、守ろうとしても守れないってわけダラ」 「何よそれ。そんなヤツ、どうやって倒したらいいの」 「オレさまに任せとけッ!」  再びドンゴが前に出ようとするので、ポーは3301との間に割って入ります。 「ここはイッショウさんに任せるポー。イッショウさんが本当の救世主なら、きっとこの状況を、自力で打開するはずだポー」  ドンゴが何かを言いかけたのですが、背後でガラガラッと瓦礫をかき分ける音がかき消します。  イッショウです。  ゲホッ、ゲホッと咳き込みながら、瓦礫の中から這い出してきます。 「あっしが救世主かどうかはわかりやせんが」  立ち上がると、砂煙を上げながら頭をブルブルッと振ります。 「ここはあっしに任せてほしいでやんす」  マヒルは心配そうに近寄ります。 「イッショウ、大丈夫なの? ここに来る前も、調子が悪そうだったし……」 「ええ。おかげさんで、まだ何とか動けるようでやんす」  入念に首や肩を回して体をチェックします。致命傷は受けてはいないようですが、それでもダメージはあるらしく、顔をしかめます。その様子を見て、ギンジは手に持っているハンマーを肩にのせました。 「ここは無理せず、全員で戦った方がいいんじゃねえダラか?」  イッショウはゆっくりと首を横に振ります。 「お気持ちはありがたいでやんすが、ここはあっしがやった方がいいでやんす。何よりも──」  チラリとポーを見た後、3301を視界に捉え、微笑みます。 「あっし自身、どこまでできるのか知りたくなって来たでやんすよ」  マヒルが不安げに胸の前で両手を握りしめています。 「勝算はあるの?」  イッショウはおもむろにその場に正座をします。 「ちょっと試したいネタがありやしてね」  扇子を懐に入れますと、張り扇を体の前に構えます。まるで剣豪が刀をそうするように、頭上に高々と持ち上げ、スーッと振り抜きます。 「これからお聴きいただく物語は、『柳生永世(やぎゅうえいせい) 剣技を極めし者』というお話でして」  浮き上がってきた侍は、やがてイッショウに憑依します。  3301は短く「ハッ」と嘲笑します。 「それはさっきの宮本ナントカとどう違うんだい?」  鼻から息を吐き出すと、呆れたように続けます。 「期待外れだね。どうやら君は、ボクたちが待ち望んでいた救世主ではないようだ」  侍を取り込んだイッショウは、スクリと立ち上がると、張り扇を体の前でス──ッと構えました。  ジリッ、ジリッとにじり寄り、距離を詰めていきます。  3301は外国人のように肩まで持ち上げ手の平を空に向け、肩をすくめるのでした。 「だからそれはさっき見たよ」  もう一度、ため息を吐き出したその瞬間でした。  イッショウは地面を蹴り上げて一気に間合いを詰め、張り扇を高々と振り上げます。  3301は頭を左右に振ると、二本の指を立てた右手をイッショウに向けます。 「ボクの『禍々しい花束』の前では、どんな攻撃も防御に変化してしまうんだよ」  右手を反転させます。  ところが──  
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