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イッショウは頭上高く掲げた張り扇──刀を構えたまま突っ込んで行きます。
3301の表情がにわかに曇ります。
(おかしい。なぜ行動が変わらないんだ?)
再び右手を反転させますが、やはりイッショウは刀を振り上げた状態のまま。
(まさか⁉︎)
何かに気がついた時にはすでに手遅れで、すでに間合いに入っているのでした。
イッショウは腹から声を出します。
「エエエッイッ!!!!」
刀は3301に向かって勢い良く振り下ろされます。
誰もがイッショウの勝利を確信します。それは3301も同様で、覚悟を決めたように目を瞑るのでした。
「遂に永世は剣術を極めます。その剣術は攻撃と防御が一対になっておりまして。つまり何人もこの剣術を反転させることはできないのでした」
3301がそっと目を開けると、額の数ミリ先で刃先──張り扇が止まっています。
イッショウは、攻撃が当たる直前に手を止めたのでした。
驚いたように、3301の肩にいた鳥が飛び立ち、近くの建物の軒先に避難して、成り行きを見守っています。
イッショウはにっこり笑うと、ささっと後ろに下がり、張り扇を帯に収めるのでした。
「と、まあこのように物語は続くのですが、残念ながらこの続きはまたの機会に。拝聴いただき、ありがとうござんす」
成り行きを見ていたマヒルが手を打ちます。
「なるほど! 攻撃も防御も同じ格好だから、『禍々しい花束』を受けても、体勢が変わらないってことね!」
深々と頭を下げるイッショウに、3301は眉根を寄せます。
「ふざけてんの? 君?」
イッショウは頭を叩きます。いつになくいい音が鳴りました。
「いやいや。ふざけるなんてとんでもないでやんす。そもそもこれは、あっしの力を試す試験みたいなものでやんしょ? ですから、あなたを倒す必要はありやせん」
その場いる全員が小首を傾げます。いや、正確には3301と──
イッショウはそっと視線を持ち上げます。
「そうでやんしょ? ポーさん」
全員の視線が、パタパタと羽を動かしながらホバリングしている猫に向けられるのでした。
ポーはこの日何度目かのワキに鼻先を近付けるというクセを行いました。
「彼とポッくんがグルだと、いつから気がついてたんだポー」
これまでのことを思い出すように、イッショウは左斜め上に視線を向け、手を顎に当てます。
「最初に違和感を覚えたのは、ポーさんと初めて出会った時でした」
「そんなはずはないポー」
またワキに鼻先を近づけようとして、イッショウが目を細めながら見ていることに気がつきます。
「まさか……ポー?」
「ええ。そのクセでやんす」
イッショウはポーを真似て自らのワキの下に顔を近づけます。
「初めてこのクセを見た時には、てっきり毛繕いだと思ってやんした。ところがポーさんはどういうわけな、ワキにしか行いやせん。猫さんの毛繕いなら、全身やお顔にもするはずでやんす」
チラリと3301の肩にいた鳥の方を見ます。
「どこかで見た仕草だと思っていたところ、ドンゴさんと初めて会った時に、あの鳥さんが飛び立つところを見てピンときたでやんす」
再びポーに視線を戻します。
「あっしは思ったでやんす。ポーさんはきっと、猫さんではなく鳥さんなんでやんしょう、と。それなのにわざわざ猫人族だと嘘をおっしゃったでやんす」
微笑みながら、うんうんとうなずきます。
「嘘をつくってことは、そこには隠したい『何か』があるでやんす。そんな時に、肩に鳥さんをのせた男性が現れたでやんす。しかも初対面のはずなのに、3301さんにやたらと詳しいでやんすからね。これはもう、この二人はグルだと考える方が自然でやんしょう」
ポーはイッショウの顔をしがみつきます。
「さすがだポーッ! やはりイッショウさんは救世主だポーッ!」
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