【 プロローグ: 母の名前 】

1/1
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

【 プロローグ: 母の名前 】

「今、どこにいますか?」  私は偶然、全く覚えていない『』の残した影の欠片(かけら)を見つけていた。『あの人』は、今、ここにいるのかもしれない……。  それは、今から2時間くらい前のこと……。  ――私は父に言われ、実家の押入れを開けると、いくつか本がそこに並んでいた。  その中の見慣れた著者名が書かれた一冊の本に目が留まる。  なぜこんな押入れの中に、この人の本があるのだろう。  私の胸が、ドクドクと音を立てるように、高鳴って行くのを感じた。  その本を震える右手の人差し指で、本の天頂部分を手前に引き傾ける。  すると、ピンク色の表紙が覗いた。  そのまま、その本を引き出して両手に取ってみる。  綺麗な桜の花の絵を背景にした表紙。  中央にはその桜を見つめる、どこか悲しげな髪の長い少女のイラストがある。  そして、作者の名前には、確かにあの人の名前が……。  その本の作者の名前……。  『樋口 春美(ひぐち はるみ)』。  私の母の名前だ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!