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【 プロローグ: 母の名前 】
「今、どこにいますか?」
私は偶然、全く覚えていない『あの人』の残した影の欠片を見つけていた。『あの人』は、今、ここにいるのかもしれない……。
それは、今から2時間くらい前のこと……。
――私は父に言われ、実家の押入れを開けると、いくつか本がそこに並んでいた。
その中の見慣れた著者名が書かれた一冊の本に目が留まる。
なぜこんな押入れの中に、この人の本があるのだろう。
私の胸が、ドクドクと音を立てるように、高鳴って行くのを感じた。
その本を震える右手の人差し指で、本の天頂部分を手前に引き傾ける。
すると、ピンク色の表紙が覗いた。
そのまま、その本を引き出して両手に取ってみる。
綺麗な桜の花の絵を背景にした表紙。
中央にはその桜を見つめる、どこか悲しげな髪の長い少女のイラストがある。
そして、作者の名前には、確かにあの人の名前が……。
その本の作者の名前……。
『樋口 春美』。
私の母の名前だ。
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