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【 父と母 】
「何? 晴美ちゃん」
ふたりは、帰り道の橋の真ん中で立ち止まった。
この橋を渡り切ったところで、ふたりはいつも別れる。
「浩二先輩……、いつも自転車を押してくれてありがとうございます……」
晴美は浩二に深々と頭を下げながら、目を瞑っていた。
「そんなのいいよ。俺、晴美ちゃんと少しでも一緒にいたいから、こうしてるからさ」
「明日も私と一緒に帰ってもらえますか……?」
晴美は顔を上げ、瞼をゆっくりと開きながら、浩二に聞く。
「答えはYES。部活終わるの一緒だから、俺からもお願いしたい。いいかな?」
「は、はい……。お願いします……」
晴美の顔が、一瞬でいつもの明るい笑顔に変わった。
「それじゃあ、約束の指きりね」
「は、はい……」
浩二が左手の小指を先に出すと、それに合わせて晴美も恥ずかしそうに左手の小指をそっと近づける。
そして、沈み行く夕日の中で、その日初めてお互いの指が重なり合った。
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「うふふっ、お母さんも意外と純情だったのね」
その母の小説を読んで、思わず笑顔になった。
こんなことが若い頃、父と母にあったんだと思うと、少しこそばゆい感じもする。
その後も、父と母の恋愛小説は、子供の私からすると恥ずかしくなるようなアツアツぶりだった……。
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「きゃっ……!」
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