無人島で恋はできない

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 その様子がおかしくて、ふ、と游太は笑ってしまった。  別に大したものがほしいわけじゃない。  むしろ些細なものかもしれない。  欲しいのは、自分たちならではのもの。  ここに存在してほしいもの。  コーヒーの香りと美味しいものの香り。  揺らいだ気持ちを、二人ならではの方法で生み出せる幸せな香りで直したい。 「フレンチトースト作って。牛乳と卵たっぷりで、蜂蜜かけたやつ」  游太の言葉に弘樹は、きょとんとした。  游太の要求があまりに普通だったからだろう。  単に朝食のメニューの希望を言っただけなのだから。 「お腹空いたし。無人島では食べられないもの、食べよう」  この世界と二人の居場所であるからこそ手に入れられるもの。  今朝はきっと特別な朝ご飯になる。 「俺がとびきり美味いコーヒー、淹れるからさ」
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