再び・朝の珈琲

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再び・朝の珈琲

 こぽこぽと音を立てて、焦げ茶の液体がドリッパーを通過してサーバーに落ちていく。  ぽた、ぽた、とひとしずくずつ落ちていくそれを、游太は優しい目で見つめていた。  朝が早くても、もう暖房を入れるほど寒いということはない。しっかり上着を着れば、むしろ体感温度はちょうどいい。  四月はすぐそこ。  年度が変わって新しい生活に入るひとも多いだろう。  先日、店に来てくれた美森さんは「将棋の会の場所が変わるんだ。家から近くなるから便利になるよ」と言っていたし、一緒にいた奈月は「四月から二年だから、先輩になるんだ」と誇らしげだった。  ほかにも「部署異動があってね」と話してくれる常連のお客もいたりする。  桜もちらほら咲きはじめた季節は、変化の季節でもある。  カフェ・レニティフも春のメニューが増えていき、だんだん変わっていく。  今朝の游太は、少し早く目が覚めた。朝に弱いので珍しいことだが。  隣でまだよく眠っていた弘樹の額に軽くキスをして、起こさないよう静かにベッドを出た。
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