再び・朝の珈琲

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 階下へ降りて、厨房でコーヒーを淹れる。  手にしたのはブルーマウンテンの袋。  しっかり濃い、コクのある味は朝の一杯にぴったり。  昨夜、弘樹は少し夜ふかしをしていたから、濃いコーヒーで目が覚めるように、それを選んだ。  コーヒー豆はブルーマウンテンだけではなく、ブレンドから単一までたくさんの種類を置いている。  それは游太が自分の商売道具として探してきたものだ。  豆だけでなく、ドリッパーも、サーバーも、勿論コーヒーカップなどの食器類も。  ひとつひとつ、丁寧に選んで、良いと思ったからこそここにあるもの。  選んできたそれらは、この空間の構成にひとつだって欠かせない。  選ぶということは恐ろしいことである、と言うひともいる。偶然が重なる不安定さがあるのだと。  しかし選ぶことは幸せなことだと思いたい、とだんだん濃くなっていく香りの中で游太は思った。  選ぶことができたなら、好きなもので身の周りを満たすことができるから。  それはいろんな選択肢があるからできること。  ひとつのものしかない中で、それを手にするのとはまったく違うこと。  確かに不安定な部分もある。  ほかの選択肢があることで気持ちが揺らいだり、不安になってしまったりもする。  けれど選んだものは、その不安すら上回る素敵なものになってくれる。  だから選ぶということは奇跡だ。  游太が弘樹を選び、弘樹もまた游太を選んでくれたことも。  (完)
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