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ヒロとユウ
「ヒロ、おきろー」
こんこん、と形だけのノックをして、青年は声をかけながらも勝手に部屋へ入った。返事を待たなかったのは、相手『ヒロ』が返事をしないだろうと思ったからだ。
そしてその予想通り。『ヒロ』はまだベッドに潜り込んでいた。
大きなベッドはダブルサイズ。
その片側を使って、しっかり布団にくるまっている。ふわふわした茶色の髪だけが外に出ていた。
「ほら、朝だぞ。もう起きないと」
トレイをサイドテーブルに置いて、青年は彼の肩に手をかけた。
軽く揺さぶる。
んん、とむずかるような声があがった。
その声や仕草は妙に子どもっぽくて、青年の頬を緩ませてしまうのだが、ほのぼのしている場合ではない。もう起きなければいけない時間なのだ。
「ん……ユウ……?」
もそもそと動いた『ヒロ』が青年の名前、というより呼び名を呼ぶ。
それでやっといくらか覚醒してきたようだ。
「ほら、コーヒー淹れてきたから」
青年、『ユウ』は香りを示すように言った。
『ヒロ』は、こーひー、とまだ半ば眠っているような声で呟いて、それでも目を開けて、もそっと動いたようだ。
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