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咎人のみる夢
はじめてひとを殺した日。
直接手を下したわけじゃない。
ただ、言葉の刃を向けてしまっただけ。
それだけだった。いつもの口喧嘩の延長。
そう思っていたのに。
あの子は、死んでしまった。
学校の教室で。自分を切りつけて。窓から飛び降りて死んだ。
わたしの目の前で。
カッターナイフを向けられたとき、殺されるんだと思った。
カチカチと鳴る音に目を瞑る。
けれど、いつまでたっても今見は襲ってこない。
恐る恐る目を開けた。
あの子は自分の腕をカッターで切っていた。
ぽたぽたと床を汚す赤。赤。赤。
血液特有の鉄錆のにおいに、息が出来なくなった。
「ああ、つまらない。もう生きていたって意味がないもの」
狂ってしまったんだろうか。
笑いながらカッターをカチカチと鳴らしている。
血と狂気にまみれながら、あの子は窓から飛び降りた。
外から聞こえる複数の悲鳴を、わたしは遠くで聞いていた。
まるでテレビの中の出来事みたいで。
現実だとは思えなかった。
悲鳴も、怒声も、近づいてくるサイレンの音も。
わたしにとっては、ぜんぶぜんぶ遠くの出来事で。現実味がなかった。
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