九十九花

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 体中に咲かせた花々に新たにオモトの花を挿された花霞は、ベッドの上で静かに目を閉ざしていた。  紅花の助けを借りて燕がベッドの端にもたれかかれば、その瞳がゆっくりと開く。 「つばめ、」  花霞が燕の名を呼ぶ。愛おしくて仕方がないというように。ろくに体が動かず彼に触れることができないのを悲しんでいるように。燕はその声に切なく胸を締め付けられながら、震える手で花霞の頬に触れた。  薔薇を引き抜いたせいでうまく力が入らず、本当に指先でしか触れることができなかったが、それでも花霞は満足そうだった。幸せだと語るとろけた瞳に涙をこらえて、燕は想い人に宣言する。 「絶対に、助けてみせるから」  情けないほど声が上ずっていたが、それでも燕は無理やり言葉を絞り出す。 「たくさん君を待たせてしまうことになる。待ち続けるのはきっと苦しいだろう。今すぐ君を助けることができないのは正直悔しいよ」 「つばめ、」 「でも、約束するから。僕は絶対に諦めない。君を助けるためなら、薔薇だろうがなんだろうが全部くれてやる」 「一緒に生きよう、花霞」  花霞の瞳が歓喜に煌めく。  美しい黒曜の瞳には瑞々しいアザレアが浮かんでいて、何故だか、この花だけは枯れることがないのだろうと燕は思った。  この花だけは、花霞を蝕むようなことはない。きっと。  燕は花霞の体にすがりつき、乾いた唇に口づけを落とす。  それは彼を救うという決意の証でもあり、愛しい人の熱を確かめる拙い行為でもあった。
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