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「君に笑っていてほしい。ずっと隣に居てほしい。朝が来ても話がしていたい。君に触れたい。君を強く抱き締めたい。こんな気持ちが、同情なもんか」
燕の言葉に花霞はまつ毛を震わせ、身をよじって逃れようとした。だが燕はそれを押しとどめると、無理やり彼の眼前に顔を突き出す。
「よく見てみろ。僕の目にはなにが浮かんでいる。なにが見える。この花は憐みでも同情でもないはずだ」
人の感情が花となって見えるというのなら、花霞にだって本当はわかっているはずだ。わかったうえで彼は目を背けているのだ。
そんなのは許さないと燕は告げる。燕の想いを知るのはきっと怖いだろう。今すぐにでも逃げ出してしまいたいのだろう。だが、もう燕は花霞を逃がすつもりはなかった。恋に怯えるこの愛しい人に、自分の想いを受け入れてほしかった。
もう、己に嘘を吐いて苦しむのは終わりにしてほしかった。
嫌だ、と花霞は叫ぶ。だがどれだけ残酷だとわかっていても、燕は引くつもりはなかった。
燕も花霞も卑怯者で、愚か者で、臆病者だ。本当はずっと知っていたはずなのに、膨らみ続ける恋心から目を背けて、拒絶して、そのくせ捨てることもできなくて。
だが、それももうこれで終わりにしよう。
腹の底から焼けつくような熱がこみあげる。燕はその熱に胸を焦がしながら、叫ぶように想いを告げた。
「好きだよ、花霞。君のことが、ずっと好きだった」
大きく見開かれた花霞の瞳に、燕の姿が映りこんで。
刹那、その体に無数の丹花が咲き誇った。
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