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燕の体を覆いつくし、深紅の薔薇が花開く。
その意味を、花霞は知っているだろう。いいや、他でもない花霞だからこそわかっているはずだ。
赤い薔薇の告げるその意味も。
九十九の花が告げるその意味も。
「私を愛して」と泣き叫ぶ胸に咲いたトラユリに対する、燕の答えだったのだから。
花霞の瞳からはらはらと涙が零れ落ちる。
燕は薔薇の咲いた指で煌めく雫を拭ってから、強く彼の体を抱きしめた。
「終わりなんて絶対に来させない。僕が君を繋ぎとめてみせる」
花霞の体温を確かめるようにがむしゃらに掻き抱けば、耳元で彼が笑う気配がした。
「絵空事だよ、そんなもん」
嘲笑交じりのそれは、けれど燕にすがりついているようにも聞こえた。
絵空事なんかじゃない、と燕は断言する。けして叶わない夢としてなんか終わらせない。燕は必ず、花霞を救ってみせる。
花霞を死なせたりなんかしない。独り置いてかれる未来なんかやってこない。
花霞は、ずっと燕の隣で生き続けるのだ。
「……馬鹿だなぁ」
嗚咽とともに、花霞が笑みを零す。
「本当に、君は馬鹿だよ……」
燕と花霞は強く結ばれたまま、ようやく触れられたお互いの体温に涙を零し続ける。
燕の足元に、音を立てて落ちたトラユリの花が転がって。
足に咲いた薔薇の花に触れると、幸せそうに寄り添うのだった。
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