枷と沈む

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 波の音が聞こえない。日の光は遠い。不気味な風が吹き荒れている。  そして、ピーッ、ピーッと規則的に鳴る機械音。  電気の消えた病室の中に僕はいた。  腰かけた椅子の隣、ベッドに横たわるのは兄の姿。 『絞殺には種類があります。首を吊った勢いや圧力によって骨が折れて即死。脈を占めることで脳に血が通わず呼吸もできず、じわじわと苦しんで死ぬ。この二種類。お兄さんは後者で死ぬところでした。行為に及ぶ前に騒音騒ぎを起こしていたことで、警察が着来て、幸いなことに最悪の事態は免れました。しかし……』 「なぁ、なんで死ななかったんだよ」  自分自身で辛くなる。そんなことを言うために、戻ってきたわけじゃないのに。  両親は死んだ。仕事は辞めた。頼れる人は去って行った。そして、唯一の肉親は植物状態。 「あんたはどれだけ、僕を苦しめればいいんだ!」  暗い病室の中でベッドに頭を伏せて泣き喚いた。誰も救ってはくれない、世界の端の端。それでも、もう、泣くしかなかった。  昔を思い出す。僕ら二人はあんなに仲良しだったじゃないか。僕はずっとあなたのことが大好きだったじゃないか。  あの仲良しの兄弟は。笑いあっていた二人は。  あの時の僕らは、今どこにいるんだよ……。 「答えろよ……答えてくれよ」 ――僕を、 ――僕らを見殺しにしたのは、どこのどいつなんだ?
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