枷と沈む

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『今どこにいるんだ?』  朝、目が覚めてすぐに兄からそんなメッセージが届いていることに気づく。ここまで逃げて来たのに、こんな最悪な朝を今日も迎えてしまうのか。 「……ん。ミツヒコ起きたんだ」  僕の隣で寝ていた女性がむくりと起きる。昔から朝は弱いっと言って仕事に遅れてきていたくらいの人だった。本当につらそうな顔を見て、思わず呆れてしまった。 「先輩は、まだ寝ていていいですよ。僕はただの癖ですから。この時間にメールのチェックをしないと不安なんです」 「ううん、起きる。コーヒー淹れてあげる。それと、ホットサンド」  そう言いながら彼女は眼を瞑った状態で起きると部屋を後にした。  僕も寝室を後にしてリビングまで向かうとノートパソコンの電源をつけてメールのチェックを始める。まぁ、先日仕事を辞めたばかりだからもう確認するメールなんて来ない。  やめてすぐの頃は、取引相手まで連絡が言ってないせいか僕宛に次々にメールが来ていて、それに対応する必要があったがそろそろ落ち着いたようだった。  ぱたりとノートパソコンを閉じて、キッチンのほうを見る。眼鏡をかけて髪を結んでソーセージを焼くレイコさんがいる。普段のかっこいい彼女を見ているとこういった一面が新鮮に思える。誰だって、表の顔と自分の顔を持っている。その中で裏の顔を持ち合わせている人もいる。  大きくあくびをして、改めてスマホを開いて兄からのメッセージを確認した。
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