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男はまだ青白い顔で寝床に就いている娘をそっと抱き締める。
「私に合わせる必要も、全てを受け入れることもしなくていい。見たくないものは見なくていい。お前が見たいものがあれば私は見せよう。お前が私の話をそばで聞いていてくれるだけで嬉しいのだから。お前は自らが望む姿で構わない……」
娘は自分を抱き締めている男の名を、か細い声で呼びながら泣いた。
もとは誰もが振り返るような美しい娘。
しかし男がそのままの娘に気付こうともしなかったため、自分に見てもらうために娘は自らを曲げたのだ。
男は娘が自分に姿を合わせ、それに気付かせてくれたこと、自分を想ってくれていたことに感謝した。
そして思った。
本当に美しいものは自分を想ってくれる娘の心かもしれない、と……
それから二人は旅に出た。
「貴方、今日は二人で何を見に行くのですか?」
娘は目を輝かせて男に問う。
「今日はな、お前が前に聞いて見てみたいと言っていた“希少な虹色の実が成る木”と、別の世の者が行き来する闇の入り口にあるという“漆黒の門”を探しに行こうと思うのだ」
男は目を細めて嬉しそうにそう答える。
「それは楽しみです!貴方と共に見知らぬものを見に行けるのは、私にとって本当に、とても幸せなことです。お慕いしています貴方……!」
男は笑って、幸せそうな娘を歩きながら抱き寄せる。
幸せそうに笑い合う、少々変わった姿の美しい娘と奇妙な姿の男を、道行く者たちは不思議そうに見つめていた……
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