滝に溶けて声となれ

1/14

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「お前さ、それで良いの?」  思いがけない言葉に、私は顔を上げる。 「え……?」  日が傾いた、放課後の教室。  机を挟んだ向かい側に、私をまっすぐに見つめる瞳がある。  心の中を見透かされそうなが、とても苦手だ。  同じクラスの(たちばな)蒼介(そうすけ)。  同い年の男子たちと比べると落ち着いていて、大人びている。勉強もまあまあできて、陸上部でも優秀な成績を残していて、ちょっとモテる。  最初の頃の印象は、そんな感じだった。  でも、最近は違う。  彼は時々、私に対してをする。心の中を覗こうとするような、私の本心をわかっているかのような目。  それでも、こんなふうに直接、言葉にして投げかけられたことは今までなかった。  そこまで親しい間柄でもないし、同じクラスになって五ヶ月、挨拶や業務連絡くらいしかしたことなかったと思う。  「今、やりたくもない日直当番を押しつけられてるじゃん」  書きかけの日誌の上、シャーペンを握った手の平に、汗がじわりと滲む。 「……これはただ、私が困ってる人を無視できないだけで」 「『困ってる』? あんなの、都合良く押しつけてるだけじゃん」 「でも、『デートがある』って……。私は何も予定ないし……」 「そうやっていっつも、誰かの仕事をやってない?」  彼の言葉に、何も言えなくなる。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加