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「お前さ、それで良いの?」
思いがけない言葉に、私は顔を上げる。
「え……?」
日が傾いた、放課後の教室。
机を挟んだ向かい側に、私をまっすぐに見つめる瞳がある。
心の中を見透かされそうなその目が、とても苦手だ。
同じクラスの橘蒼介。
同い年の男子たちと比べると落ち着いていて、大人びている。勉強もまあまあできて、陸上部でも優秀な成績を残していて、ちょっとモテる。
最初の頃の印象は、そんな感じだった。
でも、最近は違う。
彼は時々、私に対してそういう目をする。心の中を覗こうとするような、私の本心をわかっているかのような目。
それでも、こんなふうに直接、言葉にして投げかけられたことは今までなかった。
そこまで親しい間柄でもないし、同じクラスになって五ヶ月、挨拶や業務連絡くらいしかしたことなかったと思う。
「今、やりたくもない日直当番を押しつけられてるじゃん」
書きかけの日誌の上、シャーペンを握った手の平に、汗がじわりと滲む。
「……これはただ、私が困ってる人を無視できないだけで」
「『困ってる』? あんなの、都合良く押しつけてるだけじゃん」
「でも、『デートがある』って……。私は何も予定ないし……」
「そうやっていっつも、誰かの仕事をやってない?」
彼の言葉に、何も言えなくなる。
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