滝に溶けて声となれ

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「食べに行くんだったら、どこが良い? 何が食べたい?」 「えっ……。いや、なんで急に……」 「『日直当番が終わった後、ご飯食べに行かない?』って聞いてるんだけど」 「や、私は……」  今まで、男子と二人きりで帰ったことなんてない。  ましてや、この人と。それは、正直困る。 「ラーメンとハンバーガーだったら、どっち?」 「あの、どっちでも……」  すると彼は、固まっている私から日誌を取り上げた。 「なーんてね。冗談」 「えっ!?」 「今、俺からの誘い、断れなかったじゃん。ラーメンとハンバーガーの質問にも、『どっちでも』って言ってるし」 「それは……」 「そういうところじゃないの」  そう言うと彼は私に背を向け、日誌の続きを書き始めた。  なんだか、胸の奥がチクチクと痛い。 「……ほら、帰っていいよ。日誌は、俺が書いておくから」 「え……。でも」 「本当は早く帰りたかったんだろ? 日誌くらい、俺一人でどうにかなるから」  橘……くん。  この人の言葉は、なんで心を揺さぶるんだろう。  一見、キツい言葉を投げているようでいて、結局いつも私のことを助けてくれるんだ。  学級委員が私に決まった時だって、そうだった。  男子の学級委員決めの時、彼が自分で手を挙げて、後で「俺とだったら苦労しないから」って言ってくれた。  実際、彼が学級委員のパートナーで良かったと思っている。    一人でクラス全員分のテキストを運ぼうとしていた時も、どこからともなく彼がやってきて、ほとんどのテキストを持ってくれた。他の男子なら、私に任せっきりだっただろう。
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