滝に溶けて声となれ

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   ……ああ、そうだ。やっとわかった。  いつだって、私には勇気がない。  いじめられっ子だった幼少期。  嫌われないように、中学校では他人に合わせるようになった。  同調が基本。自分の本当の気持ちは言わない。  にこにこ笑って、他人に親切にして、意見を合わせる。頼まれても断らない。  努力の甲斐があって、ずっと平穏な生活を送れている。  でも、そんなスタイルを続けていたら、高校生の頃には、自分がどう思っているのかがよくわからなくなっていた。 「ねえ、瑞希。お揃いのストラップ、ピンクと水色、どっちにする?」 「私は、どっちでも良いよ」 「どっちでもじゃなくてー。『どっちが良いの?』って聞いてるの!」  「えっと……よくわかんないな。さやかはどっちが良いの?」 「私はピンクだけど」 「じゃあ、私は水色が良いかな」  私はずっとこんな感じだったのだけど、その日初めて、さやかが不機嫌そうな顔をした。 「……なんか瑞希って、つまんない」  本当に好きな色はピンクだけど、「どっちが良い?」って聞かれたら、「あなたが選ばなかった色が良い」って心から思う。  でも本当は、「ピンクが良い」って言う勇気がなかっただけかもしれない。  恋も、そう。  いつも遠くから見つめるだけで、自分の気持ちを伝えようとしてこなかった。  「片想いで満足なんだ」って自分に言い聞かせて、告白する勇気がなかっただけ。  いつだって他人の顔色をうかがって、自分の気持ちを押し殺して、笑顔を作るのだけは上手くなっていく。  だけど、「どうしたい?」って聞かれたら答えられなくなる自分。  そんな自分が……嫌いだ。 「お前さ、それで良いの?」  勇気がないだけの自分に気づかせてくれたのは、眩しいくらいに本音をぶつけてくれる、君だったんだ。
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