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翌朝、いつもより一本早い電車に乗って、学校へ向かう。
陸上部の朝練が終われば、彼は教室に来る。
早く彼に会って、「おはよう」って言いたい。
それから、欲しかったCDが無事に買えたことを話して、お礼を言って……。
今度は私から、ご飯に誘おう。
彼からご飯に誘われた時、複雑な気持ちだった。嬉しいような、困るような。
だって、心の準備ができていないから。
そう、それはつまり、たぶん……。
下駄箱に着いた時、速水さんに声をかけられた。
「おはよー、瑞希っち」
「あ、おはよ……」
「昨日さぁ、橘くん一人で日誌書いてたって本当? さっき、他のクラスの子から聞いたんだけど」
引き受けておいて結局、他の人に頼んで帰ってしまったこと、バレてしまった。
「ご、ごめん。本当は昨日、用事があって……。橘くんが『やっておくから帰っていい』って言ってくれたんだ……」
すると、彼女の声が、低く冷たい色へ変わる。
「ふーん。『予定ない』って嘘だったんだ。それならそう言えばいいのに。橘くんが可哀想だよね」
「ごめんなさい……」
彼女は腕を組んでこちらを睨むと、言葉を続ける。
「言っておくけど橘くん、彼女いるからね」
「え……?」
「モテる人に優しくされて舞い上がってるのか知らないけど、橘くんが親切なのは、学級委員だからだよ。だから、『自分だけ優しくされてる』とか勘違いすんなよ」
「私はそんな……」
速水さんは突然、笑い出した。
「いや、好意あるでしょ、あんた。橘くんと話してる時、ちょっと顔が赤いし。せっかく二人きりにしてあげたのにねえ。ま、どっちにしても、あんたの恋は実らないけど」
彼女は後からやって来た友達と一緒に、階段を上がっていった。
取り残された私は、ただ立ち尽くしていた。
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