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「先生見て! このアイシャドウキラキラしてて綺麗でしょ」
「うん。凄く綺麗」
「私は? このワンピース可愛いでしょ? ママの手作りなの」
「うん。とっても似合ってるよ」
花村はオシャレに興じる教え子を暖かい目で見詰めていた。
「先生もオシャレすればいいのに。ママの作る洋服素敵なんだよ。先生になら大サービスするよ」
「うちで売ってる化粧品も先生になら大特価にするよ」
「ありがとう。先生もお化粧したいし素敵な洋服も着たいな。でも先生は肌が弱いからお化粧するとすぐかぶれちゃうの。洋服もヒラヒラしたのやフリルがある物だと痒くなっちゃうの」
「えー、可哀想!」
自慢して先生に見せびらかしていた自分達が恥ずかしくなった。少し気まずそうにしている2人に花村は優しく言った。
「じゃあ、いつか先生が死んだら、その時はあなた達が先生を変身させてくれるかな? もう痛くも痒くもならないから」
「分かった。それまでにメイクの腕上げておくね!」
「楽しみだなぁ。思いっ切り綺麗にしてね。約束よ」
「任せておいて!」
3人で指切りをした。
そして日曜日、遊びに行った2人は先生の遺体を発見した。悲しみと恐怖で2人はしばらく動けなかった。でも大好きな先生との約束を果たすため、由衣は家に戻り隠してとっておいたワンピースを持って来た。美紅は家に帰りテスターの化粧品を持って来た。
美紅は丁寧にスキンケアから始め、花村の顔を仕上げていった。痛くないように、そっと瞼を押さえアイラインを引いた。由衣も硬直している花村の体を傷つけないよう、優しく着替えさせた。
花村は変身した。苦悶の表情は穏やかな微笑みに、地味な服装は蝶のように華やかに。
「先生綺麗になったよね」
「うん。別人みたいだったね」
「先生は優しい先生から綺麗なお姉さんに変身したんだよ」
「変身して空へ飛んでっちゃったね」
2人は空を見上げながら呟いた。
「私大人になったら肌の弱い人用の化粧品を作る」
「私も大人になったら肌の弱い人もオシャレ出来る服を作る」
2人は改めて固く手を握り合い、学校へ向かって走り始めた。
〈終〉
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