エンバーミング

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「無いなあ」  真田と若林は現場となった花村の部屋へ来ていた。鑑識の調査も終わり既に誰もいなかった。その部屋の中を真田は細かく調べていた。 「何を探してるんですか?」 「化粧品だよ。アイシャドウだの口紅だの」 「そういうのはポーチに入れてるもんですよ。ほら、あった」  若林は花村の通勤用のバッグからポーチを取り出しチャックを開けた。 「ファンデーションにリップクリームに……あれ、これだけ?」  ポーチには最低限の化粧品しか入っていなかった。 「じゃあこっちかなあ」  若林は洗面台を見に行ったが基礎化粧品しか置いてなかった。 「あったか?」 「いや、無いですねえ」  女性にしては化粧品が少な過ぎる。何処かにしまってあるのだろうか。しかし1人暮らしだし普段使う化粧品をしまい込むわけが無い。 「おかしいなあ」  若林はクローゼットの中を見た。丁寧に仕分けされた衣類はどれも地味なものばかりだった。 「確かにこの被害者、彼氏はいないみたいですね」 「分かるのか?」 「だって彼氏がいればオシャレな服の1着や2着持ってるでしょう」 「なるほどな。若林は女の事は良く分かるんだな」 「え、まあ……人並みには。へへ」  若林は女にモテたいだけに刑事になった。モテるためならどんな努力も厭わない、そういう男だった。そんな若林だからこそある事に気が付いた。 「あれ、このファンデーション……」 「何だ?」 「かなり肌の弱い人向けのファンデーションです。アトピー性皮膚炎とか超敏感肌向けの」  そう言うと若林は再び洗面所に行き化粧水を確認した。 「こっちもだ。化粧水は無添加でシンプルな処方のものです。被害者は相当肌が弱かったみたいですね。だから化粧品は持っていないのか」 「じゃあ何で化粧をしてたんだ?」
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