エンバーミング

9/10
前へ
/10ページ
次へ
 次の日、花村の葬式が町の葬祭センターで行われた。クラスの子供達も授業を中断し参列した。みな俯き、涙ぐんでいた。 「なんか、こっちまで悲しくなって来ますね」  若林も目を潤ませた。  僧侶による読経が終わり焼香が始まった。児童も列に並び焼香をした。 「あ、昨日の店の子ですね。由衣ちゃんでしたっけ?」 「ああ。それと横にいる子、見覚え無いか?」 「化粧品店の娘ですね。仲良しだったんだ」 「だな」  由衣は先生に似合うと言われた薄いピンクのリップクリームを付けていた。そして遺影を真っ直ぐに見つめお辞儀をした。小学生とは思えないほど凛としていた。 「由衣ちゃん、だね?」  焼香を終えた由衣に真田が声を掛けた。 「誰ですか?」  由衣の隣にいた女の子が真田を睨みつけた。化粧品店の娘だ。場にそぐわないピンクの口紅をしていた。 「君は由衣ちゃんのお友達かな? お名前は?」 「……美紅(みく)」 「なるほど。化粧品店の娘にはぴったりの名前だ」  2人の少女は警戒し真田を見た。 「おじさん達は警察官だから安心してね」  少女達の表情は一瞬で固まった。 「2人は仲良しなんだね」 「だったら何?」 「美紅ちゃんの口紅、先生とお揃いだね」 「……!」  慌てて両手で口を隠した美紅に真田は優しく言った。 「先生、綺麗だったよ。ありがとう」  真田がそう言うと2人は顔を見合わせた。 「見たの?」 「うん、見た」 「……」  女の子達は一目散に走り去って行った。 「真田さん、もしかして今の……」 「自供だな」 「え、じゃあ着せ替え犯人は由衣ちゃん達?」 「だな」 「そうか、子供だから下着にまで気が回らなかったんだ! 大人だったら絶対にフリルやレースの……」 「行くぞ」  真田は歩き出した。 「でも遺族には知らせた方がいいですよね? 誰が化粧したのか不気味がってましたから」 「だな。本当の事が分かれば、きっと喜ぶだろう」 「ですね」  少女2人は手を繋ぎ走った。 「バレちゃったかな?」 「バレても大丈夫。私達まだ子供だから逮捕されないよ」 「そっか。良かった」  少女2人は先生の家に遊びに行った時の事を思い出していた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加