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青い塗装が塗ってあるベンチでファンタジーの本を読んでいると時間は早く経った。腕時計を見ると十分前。冴香は緊張でお腹が痛くなった。こんなあがっていて鼻歌なんて歌えるのだろうか。
「澄江ちゃん、待った?」
突然後ろから声を掛けられた。木田の声だ。
「うん、でも本を読んでたから」
「そっか。部活休んだんだろ。ごめんな。実は訊きたいことがあって」
木田は冴香の前に立ってほんのり赤い顔をしている。冴香はますますお腹が痛くなった。
「澄江ちゃん、冴香ちゃんとそっくりだろ。従妹かなにかなの? 実は僕引っ越ししちゃうんだ。お父さんの仕事の関係だから二年で戻ってくるけどね。だから伝えて欲しいことがあって」
引っ越し! 木田の顔が見られなくなるなんて、なんてことだろう。
「伝えてほしいことって?」
「走るとき、もっと腕を振った方がいいんじゃないかなって思ったから」
「本人に言えばいいのに」
木田は赤くなって何も言わない。冴香も照れくさくなってきた。
「分かった、伝えとく」
公園の木の葉が赤く染まって二人の顔も赤く染まって今日はとても暖かい秋だ。
終わり
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