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今日は暖かい。秋も真っただ中で朝晩は肌寒いこともあるが晴れの日の昼間は二十五度くらいの気温がある。部活に向かいながら廊下の窓から外を見ると青空に山稜がくっきりとしていて綺麗だ。
冴香は文芸部だ。この学校はみんなが部活に入らなければいけないが、その代わり珍しい部活もある。文芸部は好きな本を読んで読書感想文を書いたり小説を書いたりする。冴香は本が好きなのでこの部活はぴったりだった。
十月に入ってすぐだった。部活動をしている図書室へ行こうと教室を出て階段に向かって歩いているとき殆ど人気のない廊下で澄江が後ろから呼び止めた。冴香は立ち止まって澄江の顔を見る。ショートカットだったら鏡を見ているようだ。
「冴香、私、髪を切ろうと思うの」
「え?」
「そしたら私たちはそっくりだね」
冴香は澄江の真意を測りかねた。確かに見た目は同じになるが中身は違う。冴香は誰とでも明るく喋れないし百メートルだって十五秒代では走れない。
何も答えられなかったので無言で階段に向かう。廊下は三人ほど隣のクラスの男子がいるだけだ。二人の話は誰も聞いていなかった。冴香は俯き加減で歩く。
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