23人が本棚に入れています
本棚に追加
制服のまま、自室を出て文香の部屋を拳の裏側で叩いた。内側からドアが開いた。音楽がさきほどより大きなボリュームで鼓膜に響く。目の前には目が大きく美人な文香が立っている。もう着替えたようでスウェットワンピースだ。
「どうしたの? 冴香」
「ちょっと相談があって」
文香は微笑して部屋の中に冴香を促す。木で出来たベッドにローテーブル。整頓された勉強机。女の子の部屋だという要素は猫の写真のカレンダーくらいか。十月はアメリカンショートヘアの赤ちゃんだ。
文香は床に二つ置いてある座布団の一つに座った。
「冴香も座りなよ」
「うん」
「相談事ってなに?」
「前、私にそっくりな子がいるって言ったでしょう。その子に変身を頼まれたの。お互いがお互いに化けようって」
音楽が途切れた。文香がリモコンでストップボタンを押していた。
「だって相手の子、髪が長いんじゃない?」
「明日、学校が終わったら切るらしいの。私は澄江ちゃんに変身して男の子に会うの」
「なんで?」
そう。問題はそれだ。なぜ会うのか。二人の関係はなんなのか。
「分からない。お姉ちゃん、どうしたらいいと思う?」
文香は難しい顔をして二、三分考えたが、「面白いんじゃない」と言った。
「え、だって、どうしたらいいのか分からないんだよ」
「それは澄江ちゃんに訊かなくちゃ。それを教えてくれないと変身をしないっていいなよ」
確かにそれもそうだが冴香は気の強い澄江が少し苦手だ。でも聞かなくちゃいけないと文香が言うのだからその通りにしよう。自分でも思っていたし。
「それでその男の子ってどんな子なの?」
文香は冴香が木田を好きなことを知らない。それもそうだ。冴香は誰にも言ってないのだから。こんな地味な自分に好きな子がいるなんて人は笑いそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!