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「今どこにいますか?」
スマホから、パムの声がする。風のようなボソボソしたノイズに紛れて。
「わたし? もう着いたよ。約束の赤い灯台にいるよ」
サリは、ポニーテールを揺らしながらキョロキョロと辺りを見回した。
この離島のシンボルである巨大な赤い灯台は、夏のじっとりした太陽を受けて生き生きとそびえ立っている。
「私も赤い灯台にいますよ。どこにいるんです? どこにも見えない……」
「やだ、からかわないでよパム」
サリは噴き出す汗をぬぐった。
ある日サリのスマホにかかってきた間違い電話。
ほんの少しの会話のなかで、年齢も近く、たまたま旅行好きの趣味が合うことを知り、盛り上がってお互いの電話帳に番号を登録した。
パムは良いところのお嬢様という感じで、色々な国の文化についてサリに教えてくれた。
サリは今までに行った国の素敵な体験を沢山彼女に話した。
住んでいる町どうしのちょうど真ん中にあるこの離島で、ふたりは夏休みに会う約束をしたのだ。
「灯台の入り口のドアまで来て」
サリは灯台の周りの道を歩きながら、影から出てくるであろう、まだ見ぬ親友の姿に思いを馳せた。
「ドアですね、わかりました」
しかし、サリがしばらく待っても誰もドアの前に来ない。
「あれ? ドアの前にいるよ」
「わ、私もいます……」
「えっ……」
今日の日付を確認しあい、島まで来た経路を確認しあい、この場所から見える景色や建物を確認しあい。
二人はお互いが……同じ地理、同じ世界を、違う時空で共有しているのだと悟った。そう結論付けるしかなかった。
「こ、こんなことって……あるんだ……」
「パラレルワールドということですかね?」
さっきから電話の向こうで聞こえるノイズの原因にようやく思い当たり、サリは心配になって尋ねる。
「……そっちは天気悪いの? そんな音がする」
「どしゃ降りですよ。私の気持ちみたい」
残念そうに、パムが返してくる。
「風邪ひかないでよね。こっちはカンカン照り」
「熱中症になりませんように」
サリは、灯台の入り口の名板を見上げた。
「この灯台の名前」
「『出会い灯台』ですね」
名板の文字の彫刻にそっと触れる。いま読み上げたパムも、おなじ場所に触れているに違いない。
「会えなかった……ですね……」
「会えてるよ!」
サリは思わず大きな声を出した。
パムは電話の向こうで、うふふ、と笑った。
「あなたらしいです」
「ねえ、これから島の美味しいレストランに行こうよ。それで、同じテーブルで同じものを食べよう!」
「いいですよ!」
決して見ることも、触れることもできない二人。でも電話はいつでも、こうして繋がるのだ。
同じレストランから晴れと雨の海を眺め。
これからも、何度でも一緒に『ふたり旅』をしようと、サリとパムは約束した。
〈了〉
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