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紙飛行機が届いたことに満足した芦花は、鼻歌まじりに階段を降りた
だが、オフィスのドアを開けた途端、卑屈な気分に逆戻りした
来た時と同じように、足早にフロアを通りすぎようとしていると、
「検査室の藤堂芦花」
呼び止める声が聞こえた
ここで声をかけられたことなんて、今まで一度もない
空耳かもと思いながらも振り向くと、営業部一のイケメン、篠崎が立っていた
「は?え?」
芦花はキョロキョロと辺りを見回した
「お前以外にどこに藤堂芦花がいるんだよ。ほら、バインダー、屋上にあったぞ。大事なデータなんだからしっかり管理しとけよ」
篠崎が、芦花の頭の上にバインダーを置いた
「ありがとうございま…」
そこまで言いかけて、芦花は自分の声が低くかすれていることに気がついた
声を直すためにケホケホと咳払いをしていると、
「どうした?風邪か?」
篠崎が、芦花の額に手を伸ばした
俳優ばりにかっこいい顔が急接近してきたことに驚いて、芦花は後ろにのけぞった
「おっと」
そこへ、独身管理職唯一のイケメンと称される安斎が通りかかり、芦花の背中を支えた
「藤堂くん、後ろに下がるなら一言声かけてね。次はちゃんと抱き止めるから」
成熟した男の色気をまとう安斎に優しくささやかれ、芦花は顔が沸騰したかと思うほど熱くなった
「すみませ…ん?くん?」
その時、違和感は声だけじゃないことに気がついた
芦花は恐る恐る自分の体を見た
今日は、紺のツイードのワンピースだったはずだ
だが、いまの芦花は、グレーの紳士用のスーツに身を包んでいた
「あれ!?」
芦花はクルクルと回りながら自分の格好を見た
頭から爪先まで、さっきまでの自分とは違っている
近くにいた女性社員たちから、「藤堂くん、犬みたい」「またシャツの裾ズボンに入れ忘れた?」などと声がかかった
芦花は返事もそこそこにトイレに駆け込み、洗面台に手をついて鏡を見た
鏡には、アイドルのようにかわいい顔をした男性が立っていた
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