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「わっ!びっくりしたあ。藤堂くん、ここ女子トイレだよー」
洗面台の鏡越しに、トイレにやって来た女性と目が合った
「あっ?!えっ?!」
「相変わらず天然だね~」
女性は笑いながら後ろを通りすぎて、個室に入っていった
皆が、男の【藤堂芦花】と自然に接している
なぜこうなったのかはわからないが、いまの女性や、篠崎や安斎の態度から察するに、男の芦花は皆から好感を持たれているようだ
確かに鏡の中の自分は、人好きのするかわいい顔をしている
垂れ目がちの大きくて栗色の瞳
薄くて形のいい眉
歯並びがよく大きい口
芦花はドアが閉まった個室をチラリと見た
もし自分がブサメンだったらきっと人事にチクられていただろう
芦花は女子トイレを出て検査室に戻った
※※※
検査室に帰ると、室長の玉谷がデスクから手招きをした
皆がパソコンに向かい鬱々としている検査室において、室長の玉谷は異質に明るい存在だ
玉谷はデザイン室長の南出樹と話していた
南出は30代前半という若さでミアンナのチーフデザイナーに就いた伝説の社員だ
手掛けた下着も繊細で気品あふれるが、当の本人も、商品以上に優雅で美しい顔立ちをしている
「藤堂くん、久しぶり。髪の毛切った?」
突然の南出の質問に、芦花はうろたえた
まさか、髪の毛を切ったどころか性別が変わりまして‥などとは言えない
そもそも南出だって、今朝まではこんなに気安く話せるような間柄ではなかった
(神様、こういう意味ではなかったけど、イケメンと話ができるのは嬉しいです)
芦花が頭の中で感謝していると、
「藤堂‥芦花?」
という声が聞こえた
声のした方を見ると、芦花と同い年くらいの男性が、南出の後ろから芦花を見つめていた
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